アトピー性皮膚炎に新たな「分子標的薬」が登場 ステロイドと違い炎症の原因を抑える
従来より副作用も少ない
アトピー性皮膚炎は皮膚のバリアー機能の低下や免疫の異常により起きるとされる。2020年の厚生労働省の調査では患者数は125万人に上り、皮膚疾患の中で最も多い。
これまで治療の基本は、皮膚の表面に塗って炎症を抑えるステロイド薬だった。独協医科大皮膚科学講座主任教授の井川健さん(53)は「今でも治療の中心であることは変わらない」と説明する。ただ、中等症から重症の患者には効果が薄いケースも多いほか、正常な細胞も対象になるため、使いすぎると副作用の懸念があった。ステロイド以外にも免疫の反応を抑制する飲み薬や塗り薬はあったが、長期的に使うのは難しいなどの課題もあった。
そうした中、新たに登場したのが「分子標的薬」。炎症の原因となるタンパク質「サイトカイン」の働きを抑える薬だ。標的を絞るため、従来の薬と比べて副作用の懸念も少ない。2018年に初めて発売され、現在は注射薬、飲み薬、塗り薬の計9種類が承認されている。
注射薬、飲み薬、塗り薬
注射薬は「生物学的製剤」と呼ばれ、2週間から1カ月に1回、投与。炎症やかゆみを起こすサイトカインの働きを止める。一方、飲み薬や塗り薬は「JAK阻害薬」「PDE4阻害薬」というもので、サイトカインに関わる酵素の働きを抑える。井川さんは「どれが優れているということはなく、患者の症状や年齢で判断していく」と話す。
対象は、中等症以上で、従来の治療では症状の改善が難しい患者。井川さんは「これまでの治療では限界があった患者さんにとっては、新たな選択肢ができ、治療の計画がはるかに立てやすくなった」と話す。
かゆみが減って初めて熟睡
千葉県市川市の丸山恵理さん(63)もその一人。生後すぐアトピー性皮膚炎を発症し、長年ステロイドを使ってきた。症状は改善と悪化を繰り返し、かゆみが消える日はなかった。2021年3月、注射薬「デュピルマブ」を処方されると劇的に改善。かゆみは8割減ったという。今は2週間に1度、自分でおなかに注射する。「夜もかゆみを気にせず、初めて熟睡できるようになった」と喜ぶ。
徐々に対象年齢も広がっており、生後3カ月の子どもに使えるものもある。一方で、井川さんは「新しい薬だけに、副作用や治療のやめどきについては注意深く見ていかないといけない」と指摘。副作用はこれまでに重篤なケースは報告されていないが、結膜炎などのリスクはあるという。
安くはない…価格面も課題
薬の価格も安くはない。丸山さんが使う注射薬は、3割負担で1本約1万7000円。患者団体の認定NPO法人日本アレルギー友の会の副理事長も務める丸山さんは「若い学生の患者さんなどは高くて続けられない人もいる」と話す。
薬があまり知られていないことも課題だ。製薬会社サノフィが昨年、患者500人に尋ねたところ、中等症以上の患者の7割がこうした新しい治療法があることを知らなかった。井川さんは「治療を途中であきらめる患者も少なくない。実際に薬を使うかは別として、最新の情報をまず知ってもらうことは重要」と話す。