〈坂本美雨さんの子育て日記〉84・「お風呂行っちゃう?」 猫のサバ美が娘と私に与えてくれた時間

(2024年11月13日付 東京新聞朝刊)

猫のサバ美と入れ替わるように、わが家にやってきた車に乗って

寂しい自由を楽しいものへ

 娘とわたしの最近のお気に入りデートスポット。それは、スーパー銭湯。

 赤ちゃんの頃から全国を連れ回していろんなお風呂に入れていたら、すっかりお風呂好きに育った。すてきな温泉はもちろんいい、素朴な銭湯も大好きだが、入浴後、休憩所でゴロゴロしたりアイスを食べたりできるスーパー銭湯はまた格別だ。

 8月末、最愛の猫サバ美を亡くしたとほぼ同時にうちに車がやってきた。サバ美の通院がしやすいように、と思ったら納車されてすぐに亡くなってしまったのだ。介護期間中は留守にする時間を極力少なくし、仕事に出かけても数時間置きには飛び帰っていたので、時間の制約がなくどこにでも行けるというのはとても変な感覚だった。そのうえ車もある。

 残された私たちは、「あなたたち、泣いてないで、これに乗っていつでもどこでもどこまでも行きなさいよ!」というサバ美からのメッセージのように感じ、とりあえずどこかへ走ろうと車に乗り込んだ。最初に向かったのは少し遠方の、県をまたいだところのスーパー銭湯だった。出かけるには遅すぎる時間から、わざわざお風呂に入りにドライブ。これが、私たちの寂しい自由を楽しいものへ変えてくれる儀式だったように思う。

娘にとって大事なことは

 それ以来娘は毎週のように、「お風呂行っちゃう?」と誘ってくるようになった。そして先日は、妙に真面目な顔で「ほんとは毎日がいいけど、なるべく週1、できれば金曜にここに来たい。1週間終わった~っていう気がするから」と言われ、なるべくそうしよう、となった。彼女なりにしんどいことを湯船に溶かしているのだきっと。

 ふと考え事をして眉間にしわを寄せていると「ママ、仕事のこと考えないで」と言われる。そうか、自分だけでなく2人ともが解放されてここに来ることが、彼女の喜びなのか…とハッとする。

 行き帰りのドライブも大切な時間だ。彼女の好きな曲をリピートで聴いて練習したり、私のできたばかりのデモを聴いてもらったり。だんだんと対等な関係になってきた、となんだか照れくさい。ふだん学校のことをあまり話したがらない娘も、ポツポツと友達のことを話してくれる。お風呂マジックだ。きっとこれはサバ美が背中を押してくれて与えてくれた時間。

 何歳までこうして2人きりの時間を楽しんでくれるかわからない。毎週じゃなくたっていい。たまにこうして、本当の言葉が聞けたらいいなと思う。

坂本美雨(さかもと・みう)

 ミュージシャン。2015年生まれの長女を育てる。SNSでも娘との暮らしをつづる。