いつ、どう伝える? クリスマスのキーパーソン、赤装束の彼について〈瀧波ユカリ しあわせ最前線〉9
子どもが疑念を抱き始めたら
クリスマスが近づくたび、小さな子を持つ親たちと共有したい話がある。デリケートな話なので、子どもの気配を感じたらそっと距離を取ってほしい。
それは、クリスマスのキーパーソンである赤装束の彼について、いつどのように伝えるか、という話だ。
12月、多くの親たちは子どもに話す。今年も彼がプレゼントを持ってきてくれること、そのためにはいい子でいなければならないことを。彼の存在の証明とされる手紙や映像などを用意して、見せたりもする。子どもは目を輝かせ、信じて待ち、喜びの朝を迎える。その笑顔に安堵(あんど)しながら、親は納戸に押し込んでいた段ボール箱をこっそりゴミ置き場に運んだりする。そして今年も彼に「来てもらう」ことができた、やり遂げたぞと達成感に浸るのだ。
しかし子どもが小学生にもなると、そうは問屋がおろさない。疑念を抱き始めた子どもは「◯◯くんはいないって言ってる」と友人の意見を持ち出して揺さぶりをかけてきたり、「一晩で全家庭を回るのは厳しいのでは」などと的確な指摘をしたりして、親の寿命をキュッと縮ませる。逆に、疑う気配がまったくないまま高学年になる場合もある。
そんな中、親は葛藤する。いつまで信じさせればいいのか? 本当のことを言ったら傷つくのではないか? どう伝えるのがベストなのか?
もちろん各家庭において状況はさまざまで、これが正解というものはないだろう。私が言えるのは「うちはこうしたよ」とか「こういう形はどうか」など、大人たちが経験や考えを共有するに越したことはない、ということだ。
夢を見る側から、守る側に
というわけで、わが家の話。小学校低学年の娘が「本当は、いないんでしょ?」と言った時、私と夫はこう話した。
「いないけど、いる。みんなの夢を守っている人たちが、世界中にいるんだよ。お父さんも、お母さんもそう。そして今まで夢を見る側でいたあなたも、今日からみんなの夢を守る側になったんだよ」
夢を見る側から、守る側に。その言葉を聞いた娘の背筋が少し伸びたように見えた。そしてこう続けた。
「あなたが夢を見ていてくれたから、私たちは夢を守る仕事を楽しむことができた。ずっと信じていてくれて、ありがとう。これからは一緒に、みんなの夢を守っていこうね」
こうして私と夫は、娘を「夢を守る側」にリクルートすることに成功。全ての子どもたちの夢を守るべく、3人で再スタートを切ったのだった。
参考になれば幸いだ。
【前回はこちら】子どもへの性教育 理解できそうな言葉で、繰り返し
瀧波ユカリ(たきなみ・ゆかり)
漫画家、エッセイスト。1980年、北海道生まれ。漫画の代表作に「私たちは無痛恋愛がしたい~鍵垢女子と星屑男子とフェミおじさん~」「モトカレマニア」「臨死!! 江古田ちゃん」など。母親の余命宣告からみとりまでを描いた「ありがとうって言えたなら」も話題に。本連載「しあわせ最前線」では、自身の子育て体験や家事分担など家族との日々で感じたことをイラストとエッセーでつづります。夫と中学生の娘と3人暮らし。
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