2泊3日の一人旅 家族から離れて不安になって〈瀧波ユカリ しあわせ最前線〉6

(2024年9月18日付 東京新聞朝刊)

瀧波ユカリ しあわせ最前線

一人の夜のよるべなさ

 千葉県の勝浦に行ってきた。2泊3日の一人旅。リュックには着替えとノートパソコンとiPad。今風に言えば、ワーケーションだ。

 電車の時間もろくに調べず東京駅に行き、鈍行を乗り継ぎ勝浦駅を目指す。着いたら14時をまわっており、飲食店のランチ営業が軒並み終わっていた。開いている店を見つけ、勝浦タンタンメンを食す。家族旅行ではこうはいかない。無計画という名の自由。

 宿で仕事に没頭し、気付けばうっかり20時過ぎ。飲食店の夜営業が軒並み終わっていた。ここは夜が早いのだ。そんなに空腹でもないのでコンビニでアイスを買い、歩きながら食す。街灯は少なく、誰も歩いていない。

イラスト

イラスト・瀧波ユカリ

 30年前にもこんな夜があった気がする。ああ、早くこの町を出て都会に行きたい。北海道の東の小さな町にいた14歳の自分の焦燥感が不意によみがえる。いやいや、私はもう都会に出て結婚して子どもがいるんだってば。いろいろあったけど今は大丈夫なんだよ。誤作動した脳をなだめても、心細さで胸がちりちりする。宿に戻って風呂に入り、また仕事をしてからようやくベッドに入るも眠れない。どうして家族から離れて私はひとりで寝ているのだろう。よるべない。

夫と娘は何も困らない

 家にいる夫と、中学生の娘への心配はまったくない。ふたりは私がいなくても何も困らない。娘が5歳の時、1週間ケニアに行くテレビの仕事の依頼が来た。それまではあまり家族と離れたことがなく私は心配だったが、夫はこともなげに「行ってきなよ」と言ってくれた。シマウマだらけのサバンナでロケバスに揺られながら「家族からわざわざ遠く離れて、こんな弱肉強食の草原で何をしているのか」と私が無意味な不安を感じている間も、ふたりは問題なく暮らしていた。しかしマサイの男性と手をつないだ画像を送った時だけは、娘は「お母さん、あっちでこの人と結婚しちゃったの!?」と泣いたそうだ。

 朝7時、勝浦朝市へ。わらび餅とホットドッグを食べ、コーヒーを飲み、古本とブレスレットを買い、お店の人たちと会話した。楽しむ余裕が出てきて、昼はさんが焼き定食、それから喫茶店をふたつハシゴし、夜は焼き魚定食、最後はマッサージで締めた。最終日は港付近を散歩し、海鮮丼を食べて帰京した。家に帰ると娘は昼寝中、夫もいつも通り。

 しばらくしたら、また1人でどこかに行きたい。そして不安になって、そのあと楽しくなって、帰って、困ってないふたりを見てほっとしたい。

【前回はこちら】ふと顔を出す「残さずきれいに」

写真

瀧波ユカリさん(木口慎子撮影)

瀧波ユカリ(たきなみ・ゆかり)

 漫画家、エッセイスト。1980年、北海道生まれ。漫画の代表作に「私たちは無痛恋愛がしたい~鍵垢女子と星屑男子とフェミおじさん~」「モトカレマニア」「臨死!! 江古田ちゃん」など。母親の余命宣告からみとりまでを描いた「ありがとうって言えたなら」も話題に。本連載「しあわせ最前線」では、自身の子育て体験や家事分担など家族との日々で感じたことをイラストとエッセーでつづります。夫と中学生の娘と3人暮らし。

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