精神疾患の親がいる子どもをどう支えるか 埼玉県立大教授・横山恵子さんに聞く

近藤統義 (2020年1月27日付 東京新聞朝刊)
 うつ病や統合失調症などの精神疾患を抱える人が増えている。それは同時に、疾患のある親と暮らす子どもたちがいることを意味する。埼玉県立大教授の横山恵子さん(64)=精神看護学=は「精神疾患の親をもつ子どもの会(こどもぴあ)」の設立に関わり、彼らの声に耳を傾ける。なぜ子どもの支援が必要なのか。 

「精神疾患のある親と暮らす子は大人になっても生きづらさを抱えていることがあり、支援が必要」と話す横山さん=越谷市の県立大で

自信がなく、劣等感を持ちやすい 

 -精神疾患の患者数は右肩上がりで、国の調査では400万人を超える。

 その8割ほどが家族と同居し、家族が日常のケアを担っている。日本では「家庭内の問題は家庭で解決するものだ」という意識が根強い。ひきこもり状態の中高年の子を高齢の親が支える「8050(はちまるごーまる)問題」とも共通している。

 一方で家族も困難を抱えているとして、家族への支援も注目されるようになってきた。ただ、各地にある家族会は患者の親が中心。七年前に初めて、患者の子どもたちの体験を聞き、大人になってからも生きづらさを抱えていることを知った。子どもを含め、家族全体を丸ごと支援する視点が大切だ。

 -疾患のある親に育てられた子どもの特徴は。

 介護者の役割を担うしっかり者として成長してきた半面、自信がないという傾向が見える。親の疾患の影響で養育が不十分だったり、「○○してはだめ」と親の規制が強かったり、普通とは違うという劣等感を持ちやすい。学校で悩みを話せず、つらい思いを封印してきたので自分の感情が分からない人も。誰からも助けてもらえず、信頼できる大人と出会っていないため、成人後も周囲に相談できない。

「家族は家族。支援者にはなれない」

 -それで集う場が必要だと感じるように。

 2015年から患者を親にもつ人向けの学習会を開き、参加メンバーの一部で18年にこどもぴあを立ち上げた。同じ体験を持つ仲間だと安心して話せる。話すうちに「こんな親はいなくなればいい」という思いが「自分を愛してくれていた」と見方が変わったり、つらい原因は親の病気ではなく、社会からの孤立だったと気づいたりする。

 参加者の中には、親を助けたいと看護師などの専門職に就く人も多い。でも、その一人が「家族は家族。支援者にはなれない」と語ったのが印象的だった。専門的で冷静な介護に努めるほど本来の親子の関係ではなくなり、家族だけで頑張るほど外の世界とのつながりがなくなってしまう。

 -孤立する背景には精神疾患への偏見もある。

 患者による悲惨な事件が起きると凶悪というイメージが持たれやすい。そうした社会の偏見はもちろんあるが、それを患者本人や家族が自分の中に受け入れてしまう「セルフスティグマ(内なる偏見)」の影響が実は強い。そのために他者への相談や受診が遅れて、回復への一歩を踏み出す障壁になっている。「家族は家族。支援者にはなれない」との言葉は、支援者は家族に負担を押し付けず、家族は支援者を頼ってほしいというメッセージでもある。

横山恵子(よこやま・けいこ) 

 群馬県出身。埼玉県立精神医療センターなどの看護師を経て、2011年から県立大保健医療福祉学部教授。近著に、精神疾患の親がいる子どもの体験などをまとめた「静かなる変革者たち」(ペンコム)。こどもぴあは東京、大阪、札幌、福岡で活動。詳細はホームページで確認できる。