摂食障害オバケと別れるために 当事者の女性が絵本を出版 背景にある「生きづらさ」に目を向けてほしい

(2020年7月10日付 東京新聞夕刊)
 摂食障害当事者の女性が、そのつらさや回復へのヒントを物語にした絵本を出版した。摂食障害は拒食や過食といった食行動や体形ばかりが注目され、「好きでやっている」と誤解されがち。作者の雨こんこんさん(50)=千葉県在住=は「病気の本質に生きづらさがあることを、分かりやすく伝えたい」と絵本にした思いを語る。

雨こんこんさんが書いた絵本「摂食障害オバケの“ササヤキ”」とまとめるときにベースとなった冊子

20歳のころ、食事はビスケット2つとチーズだけ

 「みんなにスゴイと言われること。それは、やせることだよ」。絵本に登場する「摂食障害オバケ」がささやくのは、完璧主義で頑張る子や、自分をいいと思えない子。耳打ちされた子は懸命に減量し、拒食症になる-。

 「この子は、まさに以前の自分」。真面目で努力家の雨こんこんさん。症状がひどかった20歳のころは、勉強や友人関係で行き詰まると、やせることに熱中した。数時間もジムで運動し、昼夕食はビスケット2つとチーズだけ。病気の自覚もなく、空腹で時々過食すると、意思の弱さを責めた。

知的障害ある子どもを産んで、自分も変われた

 変わったのは、知的障害のある子どもを産んでから。子どもは人懐っこく、周りから愛された。バスの色や駅の音など、どんなことも楽しむ様子に「私は人の顔色をうかがい、努力してきたけれど、そうではない世界にこそ豊かさがある」と教えられた。

 障害児を育てる母親たちと過ごす中で、強い自分を見せるよりも弱音を口にできることが、互いのつながりを深めると実感。安心し、体重にも関心が向かなくなった。周囲に助けられた経験から「恩返しがしたい」と、自治体の相談員として親たちに寄り添ってきた。

「いいワル」でもあるオバケ どう別れる?

 摂食障害の背景にある生きづらさを伝えようと約2年前、思いを冊子にまとめた。その際に助言を求めた日本摂食障害協会の鈴木真理理事長の監修で、冊子をベースに、絵本「摂食障害オバケの“ササヤキ”~やせたくなったら要注意~」(B5判、32ページ、少年写真新聞社、税抜き1800円)ができた。

 絵本では「自分に優しく」などと、オバケとの別れ方を紹介しつつ、オバケは摂食障害の当事者たちを嫌な現実から守る「いいワル」でもあると解き明かす。

 雨こんこんさんはこう助言する。「症状はつらいときに鳴る警報装置。自分から症状を切り離して考え、うまく手なずけて付き合ってみて」

新型コロナが当事者に影響 専門家「日常が乱され、不安が強まる」

 新型コロナウイルスの感染拡大は、摂食障害の当事者の内面にも暗い影を落としている。日本摂食障害協会(東京)が4月15日~5月7日に行ったウェブアンケート(回答者278人)では、71.2%が新型コロナの影響で憂うつな感情を抱くことが増えていた。

 家族や友人関係など、もともとあった不安がコロナ禍で増した人は53.6%に上った。食症状では過食型で73.1%が過食が増えた。拒食型で3食の量が減ったのは33.3%だった。

 同協会の西園マーハ文(あや)・理事=明治学院大教授=は「症状の背景には不安や悩みがある。多くの当事者が食事の量や時間などをマイルールで設定し、体重や気持ちを安定させているが、コロナでその日常が乱され、もともと抱いていた不安を強くしている」と説明。

 今の生活に合わせて1日の大まかな時間割を作り直し、気持ちを明るくする趣味を持つことなどが大切とし、「環境の変化を好機ととらえ、食事量を変えるといったチャレンジをしてみて」と呼び掛ける。

摂食障害とは

 拒食や過食など、食行動を中心に問題が起きる精神疾患。重症化すると死に至ることもあり、自殺を含めた死亡率は他の精神疾患に比べて高い。厚生労働省の研究班が2014~2015年に行った調査では、病院を受診した推計患者数は約2万4500人。診療所や受診しない人は含まれず、実際はもっと多いと考えられるという。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2020年7月10日