里親が養育する子ども、4人に1人が「障害あり」 厚労省が来年度から専門家派遣

五十住和樹 (2021年3月24日付 東京新聞朝刊)
 里親の家庭に預けられた子どもの4人に1人に発達障害など何らかの障害があることが、厚生労働省の調査で分かった。養育中に初めて障害が分かり、戸惑う里親も少なくない。里親が養育しやすい環境づくりに向け、厚労省は2021年度から、障害児施設などから専門家を里親宅に派遣し、支援するモデル事業を始める。

3歳で引き受け「毎日が試行錯誤」

  「この子の愛情の入れ物は大きなざるになっている。その網目をどうにか小さくするのが私に課せられた役割かな」。埼玉県朝霞(あさか)市の江川千佳子さん(62)は、里親として10年前から育てている中学1年生の女児への思いを語る。

 女児は自閉症スペクトラムと軽い知的障害がある。特定の食材にこだわり、環境の変化に対応するのが苦手だ。3歳で引き受けた最初の頃は大人と風呂に入るのも嫌がり、パニックになり暴れたり、物を壊したりすることも続いた。江川さんは「毎日が試行錯誤」と言う。

信頼関係を築くまで苦労を重ねて

 江川さんは3人の息子を産み育てたが、「がんで早世した友人がなりたかった里親に私がなる」と研修を受け、里親に登録した。義父が園長だった幼稚園で、障害児も健常児も一緒に育てる統合教育をしていたのを見て、「障害のある里子も受け入れる」と児童相談所(児相)に伝えていたという。

 6年前には知的障害のある当時8歳の女児も引き受け、昨年6月まで育てた。信頼関係を築くまでに苦労を重ねたが、「また違う子育てだと思うようにした。その子の成長が見られ、心がつながったときは本当にうれしい」とほほ笑む。

半数以上が「育てていく中で判明」

 厚労省によると、さまざまな事情で実親と暮らせない子どもは、全国に約4万5000人いる。その多くは児童養護施設や乳児院などに入所しているが、里親の家庭で育つ子どもも年々増えており、2018年2月現在では5382人。そのうち1340人に何らかの障害があった。

 日本グループホーム学会(横浜市)が2009年、1016人の里親に聞いた調査では、障害児や発達に心配がある子を養育する里親の57.6%が「育てていく中で障害が分かった」と答えた。育て方などの相談先は、児相の職員が67.1%で最も多かった(複数回答)が、相談が「役に立った」という人は半分以下。「突き放された」「児相は里親に子どもを丸投げしている」との声も上がった。

一人で抱え込まないための支援を

 一方で、ほぼ6割の里親が「障害があっても、受託にためらいはなかった」と回答。ただ、「よほどのバックアップがない限り、障害児の養育は技術的、体力的、精神的に困難」との指摘もあった。

 モデル事業は、障害児を養育する里親の不安や負担を減らすのが狙い。障害児施設の職員が里親宅に出向いて相談に乗り、関わり方など専門的な助言をするほか、地域社会との交流支援も想定している。江川さんは「里親は一人で悩みを抱え込んでしまうことがある。障害児のためのサービスや生活支援、病院の情報なども必要だ」と訴える。

 里親の障害児養育に詳しい札幌市の社会福祉法人「麦の子会」総合施設長の北川聡子さん(60)は「里親の心身の安定が子どもの安定につながる」と指摘。里親が相談したいと思った時にすぐに対応できる態勢づくりや、子どもと肯定的に関わっていくペアレントトレーニングの推進を求めている。