善意でも…支援の場で起こりうる子どもの被害 東京スター銀行がリスク回避施策を公開 子ども食堂支援の条件に

小林由比 (2022年5月27日付 東京新聞朝刊)
 子ども食堂の活動資金を支援している東京スター銀行(東京都港区)が、運営団体向けに、子どもたちがより安心して安全に利用できるための取り組みを促すプログラムを提供している。さまざまな人が関わる子ども支援の現場では、どんな問題が起こりうるのか。善意から出た言動であっても誤解を招く恐れもある。同行のプログラムから考えた。 

リスクマネジメントは銀行の得意分野

 東京スター銀行は2019年度から、子どもの貧困解消を目指し、寄付などを通じて首都圏の子ども食堂の支援を続けている。2022年度も8団体、計10カ所の食堂に30万円ずつを寄付した。

 昨年度からは支援の条件に、同行が独自に作った「安心・安全プログラム」の導入・実施を加えた。担当する同行の牛堂(うしどう)望美さん(39)は「銀行の得意分野であるリスクマネジメントの面で役立てればと考えた」と話す。

東京スター銀行の牛堂望美さん

性暴力、虐待、プライバシーの侵害…

 プログラムでは性暴力や虐待などの防止のほか、プライバシーや肖像権など子どもの権利が侵害される危険を避けるため、各団体に取り組んでほしい施策を紹介。具体的には、

  • 相談窓口の設置
  • リスクの洗い出しや対策協議を行うリスクマネジメント体制の構築
  • スタッフが守るべきルールの策定
  • 採用時にルール順守の誓約書を提出

―などだ。

 団体内部にリスクがあるかないかをみるチェックリストもある。

  • 閉じた空間で2人きりにならない
  • (抱っこ、おんぶなど)体に触らない
  • メールアドレスや電話番号など個人の連絡先を取得しない、教えない
  • 写真を承諾なく撮影しない

―といった具体的な注意点を挙げている。「問題を誘発する環境をつくらないことが大事」と牛堂さん。1人を特にかわいがったり、からかいで嫌がることを言ったり、一方的にあだ名を付けたりといった「やってしまいがち」な行為にも注意を呼び掛ける。

子どもが1人でも安心できる居場所に

 東京スター銀行はプログラムの内容をホームページで公開。寄付先の団体には年3回、報告を求めて進捗(しんちょく)度をチェックしている。「子どもを守りながら、事業を安定して続けられることが団体側にも理解されるようになった」と牛堂さん。団体側からはスタッフの定期研修を始めたり、独自のガイドラインを作ったりと積極的な取り組みも報告されている。

 認定NPO法人「全国こども食堂支援センター・むすびえ」(東京)の三島理恵さんは「子ども食堂は、子どもが1人でも過ごせる地域の居場所。こうした取り組みはとても大切で、継続することで利用者により安心してもらえる場にすることができるのではないか」と話す。

支援する側・される側の力関係 子どもは声を上げにくい

 子どもや弱い立場の人を暴力や権利侵害から守る取り組みは「セーフガーディング」と呼ばれる。2年前には、国際非政府組織(NGO)などが国内向けの「子どもと若者のセーフガーディング 最低基準のためのガイド」を作った。

 作成に関わった公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン(東京)の金谷直子さんは「支援の場では、する側とされる側に自然と力関係ができ、虐待などが起きやすい」と指摘。「タブー視せずに身近なこととして向き合い、子どもの安全を守るための予防対策を取ることが大切」と話す。

 支援を受ける子どもは「自分が悪かった」「仕方がない」と捉え、声を上げられないことも多い。金谷さんは「子どもの声を聴き、リスクを排除するために何重にもフィルターをかけることが必要だ」と訴える。