子どもの性被害につながるグルーミングとは 罪悪感や羞恥心につけ込み支配 SNSで深刻化

三宅千智 (2022年4月18日付 東京新聞朝刊)

イラスト グルーミングとは 罪悪感や羞恥心を利用するなどして関係性をコントロールし、手なずける

 わいせつ目的で子どもを手なずける「グルーミング」への危機感が強まっている。法務省の法制審議会はグルーミングに罰則規定を設けるかどうか議論を始めた。子どもの信頼や好意を得てから性的欲求を満たそうとする卑劣な手口はオンライン空間でも広がっており、対策が求められている。

多いのは部活の指導者や塾講師

 グルーミングは性犯罪につながる準備行為とされ、子どもの罪悪感や羞恥心などを利用して関係性をコントロールする。語源は英語のgroomで「手入れする」「仕込む」の意味。顔見知りが加害者になる事例もあれば、SNSによるオンライングルーミングも増えている。

 性犯罪の被害者支援に携わる川本瑞紀弁護士によると、グルーミングの事例で多いのは部活動の指導者や塾の講師から被害に遭うケース。加害者は気に入った児童や生徒を大役に抜てきするなどし、個人指導で2人きりの状況をつくり出す。「上達するために必要」と指導のふりをして性的な行為に及ぶ。

イラスト グルーミングの具体的なケース 顔見知り、SNS、面識のない人

 現行法では、性的行為の被害者が13歳以上だと、加害者が親など監護者でない場合、暴行や脅迫がなければ強制性交等罪などに問えない。川本弁護士は「グルーミングの加害者は『みんなしていることだよ』『癒やされるよ』などの文言で性的行為に誘導することが多い」と指摘する。

「愛情」「普通のこと」口止めも

 立正大の西田公昭教授(社会心理学)によると、グルーミングは意思を誘導するマインドコントロールの一種。西田教授は「監禁や拷問でなく、ごく普通のコミュニケーションの中で行われる手法であることに注意が必要だ」と強調。身近な人から関係を切り離そうとするのも加害者の常とう手段で「『他の人の言うことは信じるな』など、家族や友人の言葉を否定してきたら警戒してほしい」と語る。

 子ども自身が性的被害に気が付きにくいのもグルーミングの特徴だ。臨床心理士の斎藤梓・目白大准教授(被害者心理学)は「『信頼している人が自分に悪いことをするわけがない』と子どもは思うし、加害者も性的な欲求を愛情や普通のことだと伝える」と解説。子どもが加害者に口止めされている場合もあり、保護者が被害に気が付くことも容易ではないという。

イラスト グルーミングを防ぐための3つのポイント

広がるオンライングルーミング 被害相談は氷山の一角

 日本でもSNSに端を発するオンライングルーミングが深刻化している。加害者は、親切を装うなどして徐々に子どもの信頼を得た上で、性的な画像を要求したり、会う約束をして性的な行為に及んだりする。

 拡散した性的画像の削除などデジタル性暴力の相談支援に取り組むNPO法人ぱっぷす(ポルノ被害と性暴力を考える会)の金尻カズナ理事長は「加害者は若い人の心理や弱みに付け込む。自分が巻き込まれるとは思っていなかったという相談者が大多数だ」と強調。「ネット上では性的な目的で声をかけ放題、グルーミングし放題になっている。罰則化しないことには加害者は減らない」と法整備の必要性を訴える。

 警察庁の統計によると、SNSで犯罪被害に遭った18歳未満の子どもは2017年以降に1800~2000人で推移。2021年は1812人で、うち36%が児童ポルノ関連だった。

グラフ SNSで犯罪被害に遭った子どもの数

 ぱっぷすへの相談件数も2020年度に281件、2021年度に600件超と増加。これまで寄せられた相談には、当時中学生の女性がSNSで知り合い、信頼した相手に性的な画像を送り、ツイッターで拡散された事例などがあったという。

 ぱっぷす相談支援員の内田絵梨さんは「相談に来る人は被害に遭った人のほんの一部。『性的な画像を送った私が悪い』と自分を責めて、相談まで数年かかるケースもある」と明かす。

 金尻さんは「誰かを傷つけたくないという気持ちが若年層は強い。親しくなった相手に『みんなやってるよ』などと言われれば断りづらくなる」と指摘。「保護者が子どもに被害を打ち明けられたら、責めないで、受け止めることが大事。その上で支援団体や警察に相談をしてほしい」と話す。

法整備検討の動きも 海外ではどう規制?

 昨年9月、当時の上川陽子法相は、刑法の性犯罪規定について法制審議会に諮問した。検討事項には「グルーミング行為に係る罪の新設」も盛り込まれた。翌10月以降、学者や当事者団体、司法関係者で構成する法制審の部会で処罰要件などが議論されている。

 子どもを手なずける手口は、悩み相談や部活指導、SNSなど幅広く、親切か、わいせつ目的かの区別も外形的には付けづらい。部会では「未成年者と大人の、問題とならない交流まで処罰することにならないように」と慎重な意見も出ている。

 海外ではグルーミングを法律で規制する国もある。韓国では昨年、SNSによるオンライングルーミングを罰則化する改正児童青少年性保護法が施行された。警察官が身分を隠すなどして容疑者と思われる人物とSNSで接触する捜査手法も認められている。

イラスト 各国のグルーミング関連で罪となる行為 英国、ドイツ、韓国

 韓国刑事法に詳しい関西学院大の安部祥太准教授は「オンライングルーミングは個人間のチャットで行われ、認知自体が難しい」とし、規制が機能する場面は限定的と話す。

 ドイツではわいせつ目的で子どもに連絡を取り、目的実現に向けた働きかけを行うと処罰対象になる。英国ではグルーミングとして子どもと連絡を取り合った後に、性的な目的で会う行為などが違法とされる。両国とも捜査機関によるおとり捜査を可能としている。

 おとり捜査の是非は日本でも議論になりそうだ。北海道大の佐藤陽子教授(刑法)は「犯意を誘発して犯罪を実行させる可能性があるので、捜査方法としては問題があるとの批判が考えられる」と指摘する。

 ある検察幹部は「グルーミングというのが、多くの人にとってはなじみのない概念では。刑罰法規とするのであれば、何がグルーミングに当たるのか、誰が見ても分かるように要件を明確化しないと、国民の行動の萎縮にもつながりかねない」とくぎを刺す。

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