子どもに将来就きたい職業を聞くと、女の子たちのランキングでここ数年「警察官」が上位にランクインするようになりました。とても大切な仕事とはわかりつつも「女の子には体力的にも精神的にも大変じゃないの?」「危険にさらされるのでは?」と疑問や不安を持つ大人が多いかもしれません。てらすまなぶでは今回、警視庁の協力を得て市民の安全を守る女性警察官にインタビューしました。そこには性別にとらわれず、夢を叶え職務に取り組む姿がありました。
話を聞いたのは…
警視庁生活安全部人身安全対策課ストーカー・DV捜査第一係
廣地菜生(ひろち・なお)巡査長
2017年入庁、警察学校卒業後、綾瀬署に配属。地域課・交番勤務を経て生活安全課へ異動。その後も本庁生活安全部でキャリアを積み重ね、性犯罪の前兆となる子どもや女性を狙った声掛けやつきまといなどを専門に取り締まるチーム「さくらポリス」にも所属したことがある。約1年前から現職。
警察のお仕事とは
警察官は各都道府県の公務員として採用されるのが大半です。公務員試験を受けて採用されると、警察学校へ入校。卒業後は最初に地域警察官として勤務します。交番・駐在所での勤務やパトカーによるパトロール。みなさんが「おまわりさん」としてイメージする制服を着た警察官がこちらになります。 その後、上司の推薦などで、スーツなどの私服で犯罪捜査に当たる刑事になる人もいます。所属部署は防犯対策なども担当する生活安全部や殺人などの凶悪事件などの捜査に当たる刑事部などがあります。ドラマなどによく登場する刑事さんは刑事部所属の刑事警察であることが多いようです。
きっかけは皇居の
おまわりさん
警察官になりたいと思ったきっかけはどんなことでしょうか。

私は北海道出身で中学一年生のときに家族旅行で皇居を訪問しました。広すぎて道に迷っていたところ、特に助けてほしいと言ったわけでもないのに制服の警察官が私たちに声をかけてくれて、親切にしてくれました。助けてもらったという強い体験が「お巡りさん」という仕事を意識したきっかけになりました。
地元の北海道の警察ではなく、
警視庁を選んだ理由はなんでしょうか。
最初に憧れたのが警視庁の警察官でしたし、給与など処遇の面も魅力でした。北海道は広すぎて勤務地によっては帰省も飛行機を乗り換えしなければ帰れません。その点、東京なら羽田空港から1時間ちょっとで地元にも帰れるので東京がいいなと思いました。
他の職業は候補にありませんでしたか
小さい頃はケーキ屋さんとかがいいなと漠然と思っていましたが、警察官という夢ができてからは他になりたいものはなかったですね。
ご家族にはどのタイミングでその夢を共有しましたか

高校受験のときに「将来は警察官になりたい」と話していました。でも親は実際に試験を受けるまで信じていなかったと思います。親戚などに警察官はいなかったので、親は危険を伴う仕事なのではと不安に思っていたはずですが、警察官になることよりも、東京へ行くことを心配されました。強い反対がなかったのは、私が頑固なので言っても聞かないでしょ、と思われていたからかもしれません。
警察官になった後のイメージは持っていましたか
今はDVやストーカー被害を扱う部署にいますが、警察官になる前はこういう部署があることも全く知らなかったですし、もっと言えば北海道は広すぎてお巡りさんを見かけることがほとんどなかったので具体的なイメージは皇居で助けてくれた警察官のイメージでした。ただ、初任地の綾瀬署で交番に立っているときに、小学生が「おはようございます」とあいさつしてくれたり、犬の散歩をしている人に声をかけられると「街の人を助けたい、守りたい」というのが自分がいまこの職業についている原点にあって、その目標にしていたところにいるんだな、と感じました。
ストーカーなどの
被害者を守る
今はどんなお仕事をしているのでしょうか。
ストーカーや男女の恋愛感情のもつれからくる事案の事件捜査を担当しています。私は警視庁本部所属なので、地域の警察署からの相談に乗ったり指導や応援に行くこともあります。事件の対応だけではなく、被害者の保護も対応しています。
とても忙しそうですね
マッチングアプリの利用者が増えたからか、男女間の意思疎通ができていないことから起こる事案がすごく増えていると体感しています。暇ということはないですがそれはどの職業でも同じかもしれません。
なぜ制服の警察官ではなく、刑事になったのでしょうか。

そのときの上司が勧めてくれたのが一番大きな理由です。何も分からず飛び込んだのですが、女性の被害者が多いので、女性しか聞けない話もあります。また被害者がいる事案を扱うことが多いので、街の人を助けたいとか、警察官を志した動機につながっています。最初の夢から大きく離れたという感じではなく、やりがいがあるし、後悔していません。ここに来られて良かったと思っています。
被害者に話を聞くときに気をつけていることなどありますか。
事案について聞くことだけに専念しすぎないで、世間話を混ぜた方が良いとか、相手が休憩したがっていたら「ちょっと息抜きしますか」とか声をかけたり。後ろで刑事さんたちが待っていてもそうします。特に子どもは警察署にくると話せなくなっちゃう子も多いので、家に行って話を聞いたりします。
女性も多い、
チームワークが前提
廣地さんの所属では女性の割合はどれぐらいですか?警視庁の警察官全体では11%ぐらいのようですが。
※参考(引用はこちら)
私の所属しているチームは20人中3人が女性です。チーム以外にも女性の上司や先輩もたくさんいますし、男性の職場だから仕事がしにくいということはありません。男性と同じことをやらなくてはいけないことも多いのですが、女性だから仕事が限られるということもありません。
チームワークはどうですか。

動くのは相棒制度、2人ずつで私は男性上司とペアを組んでいます。基本的に同じ方向を向いているので衝突はありませんが、こうしたほうがいいんじゃない、みたいな話し合いはあります。事案は1、2日で対応する緊急性の高いものが多く、みんなで協力してやれることは全部やる。ひとつの事案を終えるとほっとします。
暴れている人を押さえ込んだりする場面もあると思います。男性と比べて体力的に厳しいと感じることはないですか。
そういうときは男性がたくさん応援に来てくれますし、逆に暴れている人が女性だと男性は触れないので。1人で対応することはほぼないので大丈夫です。
お休みは取れますか?
はい、予定通り取ることができますので急に休めなくなったといったことはありません。実家にも帰省しています。プライベートを優先させてもらっています。
休みの日はどんな風にリフレッシュしますか?
体を動かすことが好きなのでランニングしています。福利厚生の一環で「女子レク」というつながりがあり、違う職場の女性と集まって一緒に出かけることもあります。また、同期入庁の仲間とディズニーランドに行ったり、ドライブしたりしています。職場が同じなので気楽に話ができてリフレッシュになっています。
お巡りさんから刑事さんになって、
ご家族は心配していませんか?

特にないです。逆にドラマだとこうだけど本当なの?と聞かれることがあります。親からは資格のある仕事に就いてほしいと言われたことがありますが、それは多分、子どもを産んだ後に復帰できる職場のほうがいいと考えてのことだと思います。警視庁は制度が整っており、同期の中でも出産して復帰した人も多くいますし、ここ数年で男性が長く育児休暇を取る例が増えていると感じています。お父さんが育休をしっかり取るのは女性としても働く上で助かりますよね。
警察官になりたいと思う子どもたちに
何かアドバイスはありますか?
特殊な仕事であることは確かなのですが、人を守りたいとか助けたいとか、そういう仕事に就きたいという子にとってはまさしく向いている仕事だと思います。女性で大丈夫?と不安に思うかもしれませんが、いざ警察官になってみるといろいろとサポートしてくれる制度もあることがわかりましたし、女性の幹部や上司もいて相談もしやすい環境です。そういう意味でも女性だからと不安なことはありません。本当に人を守りたいと志すなら、ぜひ警察官になってもらいたいです。
心配しがちな親御さんへメッセージはありますか。

体力面で心配されるかもしれませんが、同期には運動が苦手という人もいましたがちゃんと警察学校を卒業しています。当番勤務などもあり、確かにきつい部分もあるかもしれませんが慣れてしまえば大したことはありません。本人がやりたいという強い意志があるならやらせてあげたほうがよいと思います。私が自分の親にしてもらったように「いつでも帰ってきていいよ」と言ってもらえたら。帰る場所があるというだけで大きな安心になり、仕事にやりがいをもって邁進できます。