「私の未来 私のもの」性別ゆえに生き方を制限される女の子たち 国境を越え、人々をエンパワーする2作品

長壁綾子、小林由比 (2025年3月8日付 東京新聞朝刊)
絵本「わたしはなれる」から

「やりたいことを自由にやれて、なりたいようになれる、そんな絵をかく。」(green seed books提供)

 世界には、性別ゆえに生き方を制限される「女の子」が多くいる。幼くして結婚を強いられたり、教育から遠ざけられたり。文化や風習に加え、近年は気候変動も追い打ちをかける。ただ、そんな中でも、のびやかに夢を描く子たちがいる。「やりたいことを自由にやれて なりたいようになれる」。想像力は国境を越え、メッセージは人々をエンパワーする。国際女性デーに、そんな彼女たちの物語を-。

インドの絵本「わたしはなれる」

女たちが歌を歌ったり、楽器を弾いたりして楽しむ(green seed books提供)

「女たちは、どんなことだってできる」

 おしゃれをして踊る。友達と旅をする。お酒を飲む-。女性たちの生き生きした姿をビビッドな色使いで描くインドの絵本「わたしはなれる」。作者のサンギータ・ヨギさん(25)は幼くして結婚を強いられ、家事労働の合間を縫って絵に願いを託した。今月下旬の日本版発売を前に、関係者が思いを明かす。

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作者のサンギータ・ヨギさん(green seed books提供)

 ページをめくると、数え切れないほどの女性が登場する。したいことを掲げ、未来の可能性を提示する。「わたしは、女たちがみんな、やりたいことを自由にやれて、なりたいようになれる、そんな絵をかく」「女たちは、どんなことだってできるし、限界なんてどこにもない」。前向きなメッセージが絵に寄り添う。

「それぞれのやりかた、それぞれのたのしみかたが、あるはず。」(green seed books提供)

「これからの女たち」想像の翼を羽ばたかせ

 インド西部に生まれたサンギータさんが学校に通えたのは小学2年まで。

 大家族に嫁ぎ、家事や育児に追われる。ただ、「これからの女たち」に想像力を羽ばたかせ、寸暇を惜しんで絵を描く。その才能に注目した現地出版社「タラブックス」代表のギータ・ヴォルフさんが声をかけ、2021年に本にした。絵に添えられた言葉は、ギータさんがサンギータさんの思いを聞いて記した。

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タラブックスの代表ギータさん(左)と写る小林エリカさん(本人提供)

「なれる」に強い意志が込められている

 国内で刊行する「green seed books」(世田谷区)代表の戸塚貴子さん(65)は23 年秋、来日したギータさんから作品を紹介され、すぐに交渉。翻訳は作家・アーティストの小林エリカさん(47)に依頼した。

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一人出版社「green seed books」代表の戸塚貴子さん

 原題の「The Women I Could Be」は直訳すると「わたしがなれるかもしれない女性」。だが、小林さんは邦題で「なれる」と言い切った。戸塚さんは「意志が込められている」と受け止める。

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サンギータさんの絵本から勇気をもらったと話す小林エリカさん

 作品中に多く出てくる「woman」は「女」に。「『女性』とすると距離があり、背負わされてきた役割を感じる。プライドを持って『女です』と言いたい」と小林さん。子どもも一人で読めるよう、漢字にはすべてルビをつけた。

絵本データ

音楽に合わせ踊りを踊る女たち(green seed books提供)

 社会問題を考える書籍を刊行する戸塚さんは「インド社会のさまざまな制約が、サンギータさんの強い夢を育てた。母親も協力して描く時間をつくった努力の結実がこの絵本。日本の読者も置かれた環境や立場を考えるきっかけにしてほしい」と願う。

「こんなにハッピーな抵抗の仕方もある」

「そうすれば、そのぶん まえへいくことが、できるかもしれないから。」(green seed books提供)

 女性が自由に振る舞えない現実は形や種類は違っても日本も共通している、と話す小林さんも、絵本に勇気づけられた一人。「描くことで現状に抗(あらが)おうという切実な思いに胸を打たれる。こんなにハッピーな抵抗の仕方もあるんだな、と。状況は過酷だけれど明るい絵は本当に楽しそうで、社会を変えられると信じています」

書影

絵本「わたしはなれる」(green seed books)

小林エリカ(こばやし・えりか)

 1978年、東京都生まれ。〝放射能〟の歴史をひもとき、その存在を問い掛ける小説「マダム・キュリーと朝食を」で芥川賞・三島賞候補。他に、同テーマのコミック「光の子ども」、小説「トリニティ、トリニティ、トリニティ」、「親愛なるキティーたちへ」、「彼女たちの戦争 嵐の中のささやきよ!」など。「女の子たち風船爆弾をつくる」で、2024年毎日出版文化賞受賞。

漫画「気候変動に立ち向かう3人の女の子の物語」

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気候変動と少女たちについて書かれた漫画本を手に、取り組みについて話すプラン・インターナショナル・ジャパンの久保田恭代さん

非常時、弱い立場の女の子たちがしわ寄せを受け

 途上国では気候変動の影響がより過酷な形で女性に及ぶー。そんな現実を漫画で伝えるのが、国際NGOプラン・インターナショナル(世田谷区)が作った「気候変動に立ち向かう3人の女の子の物語」。担当の久保田恭代さん(56)は「ジェンダーの不平等が深刻な社会では、非常時に弱い立場の女の子たちがしわ寄せを受ける」と話す。

 ストーリーは実話がベース。洪水被害に繰り返し遭っているペルーの15歳マリアは、避難所で生理用品の不足や性被害に苦しむ女性たちを目の当たりに。カンボジアの18歳テインは、干ばつによる貧困で両親が出稼ぎに行っているため、学業に励みつつ水くみなどの重労働を引き受けている。

カンボジアの女の子は、気候変動の影響を受ける村の子どもたちのために働きたいと夢を語る(村田順子作・画 国際NGOプラン・インターナショナル提供)

「できる限り前向きな少女たちを描きたい」

 多くの少女漫画を手がけてきた村田順子さんが、現地からのリポートや写真を基に描いた。「現実はもっと悲惨でつらいでしょう。でも、できる限り前向きな少女たちを描きたかった」。気候変動に向き合い、立ち上がる姿も描かれる。

2023年のCOP28に参加したシエラレオネのエステルさん。「アフリカの女の子や女性の声を対策に反映して」と訴えた(国際NGOプラン・インターナショナル提供)

 「サポートがあれば彼女たちは能力を発揮し、生き方も変わる」と久保田さん。「ジェンダー平等のゴールは一人一人の生き方の自由度が上がること。日本の若い世代にもつながって解決していこうと思ってもらえたら」

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