子どもに伝える「死」とは? 小林エリカさんが絵本『わたしは しなない おんなのこ』に込めた思い

出田阿生 (2022年1月10日付 東京新聞朝刊)

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 「死」について子どもに伝えるのは難しい。なぜなら、大人も分かっていないから。死ぬっていったいどういうこと? 生きるって? そんな疑問に向き合った絵本『わたしは しなない おんなのこ』(岩崎書店・1870円)が刊行された。作・絵を手掛けたのは、芥川賞候補になった小説『マダム・キュリーと朝食を』などで知られる作家・漫画家の小林エリカさん(43)。死を扱っているのに、「しなない」という不思議なタイトル。創作への思いを聞いた。

歌が命の連鎖のように未来へつながる

 ピンクや黄の蛍光色があふれている。小さい子が喜びそうな明るくポップな色づかいの絵本。ストーリーはこんな感じだ。冒頭、クマのぬいぐるみを手にした女の子が登場する。「死ぬのはいやだな」と考えた女の子は、ふと「♪わたしは しなない おんなのこ~」と歌ってみることにした。その歌を聴いた、ネズミや猫やノミやウナギも、同じ歌詞を口ずさんだ。その歌は何世代も受け継がれ、現代に生きる女の子も歌う。人間も動物もやがてこの世を去るが、この歌だけは命の連鎖のように、未来へとつながっていく…。

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『わたしは しなない おんなのこ』より

 「絵本を読んだ子どもたちから、それぞれが考えた節回しで、♪わたしは しなない おんなのこ~と歌う動画が送られてくる。涙が出るほどうれしい」と小林さんは語る。「子どものころは死そのものより、自分が死んだら忘れ去られてしまうことが怖くて仕方なかった。子どもの自分にも読ませたかった絵本です」

 そんな死を怖がる小学生だった小林さんを救ったのが、ナチスに命を絶たれた少女アンネ・フランクの『アンネの日記』との出会いだった。そこには「わたしの望みは、死んでからもなお生き続けること!」とあった。「アンネのように作品を遺(のこ)せば、死んだ後も生き続けられる。そう考えて作家を夢みました」

一人一人に、書ききれない膨大な人生

 夢を実現し、30歳を過ぎて書いたのが『親愛なるキティーたちへ』。アンネの足跡を追い、欧州の強制収容所を巡った旅日記だ。作中ではアンネの日記と、父で翻訳家の小林司さんが戦中に記した少年期の日記をたどった。アンネと亡父は同じ1929年生まれだった。「父の日記を読んだら知らないことばかりで。身近な家族の人生ですら、とても書ききれないと分かった」と振り返る。

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小林エリカさん

 記録されなかったからといって、人生の尊さは変わらない。最近、そう実感するようになったという。「これまで書き残すことだけが大事だと思っていたが、そうではないと気付いた。一人一人に、書かなかった、書けなかった、書かれなかった膨大な人生がある。作家として、誰かを懸命に知ろうとして、書いて、未来の人に見つけてもらえたら-と思い始めました」

生きている限り、誰かに影響を与える

 そして、それは作家だけに限った話ではないという。例えば私たちは、通りすがりの人をなぜか忘れられなくなることがある。「バタフライ効果」という言葉があるように、人間社会で生きている限り、たとえわずかであっても、誰かに誰かが影響を与えていく。それがタイトルの「しなない」という意味なのだろう。

 「子どもだからと軽んじず、手加減せずに真実を伝えたい。大人にも読んでもらえたら」と小林さんは言う。世界中で殺人や暴力の犠牲者となる女性が後を絶たない中、「わたしは しなない おんなのこ」という言葉の繰り返しが、少女や女性へのエールのようにも聞こえてくる1冊だ。

 死を考える絵本「闇は光の母」シリーズ(全5巻)の第1弾。ほかに、写真家今森光彦さん作『クヌギがいる』があり、今後は詩人谷川俊太郎さん作『ぼく』、探検家角幡唯介さん作『ほっきょくで うしをうつ』、作家ブレイディみかこさん作『スープとあめだま』を刊行予定。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2022年1月10日

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