小学1年生の「将来就きたい職業」ランキングの女の子部門では、20年前の調査から常にトップ5以内にランクインしている保育士。「女性の職業」というイメージが強いですが、最近では男性保育士も少しずつ増えてきています。そこで、現役で活躍する男性保育士に、今の職業を志したきっかけや仕事のやりがい、また保育をする上でのジェンダーバイアスについて聞きました。
話を聞いたのは…
新宿せいが子ども園
保育士
小林純平さん
10年勤めていた会社を退職し、保育士の道へ。保育士歴は4年目。0歳児、1歳児、4歳児を担当したのち、今年の4月からは5歳児クラスの担任を務める。1女の父。
娘の誕生をきっかけに、
保育の道へ
保育士になりたいと思ったきっかけを教えてください

大学卒業後、会社員として10年間営業の仕事をしていました。娘が生まれたことをきっかけに乳幼児教育について知りたいと本を読むようになったのです。そこで乳幼児期が子どもの成長にとってとても大切な時期であり、その後の人生に大きな影響があることを知り興味がわきました。娘の保育園で保育士の先生から話を聞いたり、そこで働いていた男性保育士の姿を見たりして、自分も乳幼児教育に関わってみたいと思うようになったんです。35歳で会社を辞め、その次の日には保育士の専門学校へ入学。そこから2年間勉強をして、保育士と幼稚園教諭の資格を取得しました。
保育士になるために一から勉強し直すというのは、大変な決断だったと思います。何がモチベーションになったのでしょうか?
会社員の頃は、正直言って自分の仕事にしっくりきませんでした。そんな日々の中で、人のためになる仕事がしたいという思いが強くなっていきました。まずは妻に相談しましたが、「やりたかったら、やればいいんじゃない?」と背中を押してくれたのも大きかったですね。
保育士になって、どんな毎日を過ごしていますか?

「今日は何をしようかな」とか「子どもたちにどういう働きかけをしようかな」など、日々ワクワクしながら過ごしています。妻は、サラリーマン時代を振り返って、「あの頃はため息をつきながら、青い顔をして仕事をしていたよね」と言います。今は、私が楽しそうに仕事に行く姿を喜んでくれているようです。小学4年生の娘は最近よく、(私が働く)保育園のことを聞いてきたり、自分が卒園した園に保育士体験に行ってみたいと言ってくれたり。私の仕事に興味があるようです。
小さい頃になりたかった職業はありましたか?
小さな頃の夢は、なんだったかな…。保育士になりたいとはまったく思っていなかったですね。大学でも、教員免許を取っている人はまわりにたくさんいましたが、私は興味がなかったので取らなかったんです。大学を卒業してから、なんとなくまわりと同じように就職活動をして、内定をもらったところに就職しました。ただ、母が幼稚園教諭、祖父が小学校教諭で校長をしていたので、そういった影響は少なからずあるかもしれないです。
5歳児の担任で、
プレッシャーとやりがいも
園では、どんな仕事をしていますか?
現在は、5歳児クラスの担任をしています。就学前のとても重要な時期ということで、プレッシャーもありつつ、やりがいも感じています。これまでも、0歳児や1歳児の担当も経験したのですが、昨年から4歳児を担当させてもらって、今年はそのまま持ち上がりになりました。小学校入学前の大事な1年ですから、小学校に上がってから子どもたちが困らないようにと、さまざまな働きかけをしています。最近では小学校にも度々足を運んで、入学後にどんな困ったことがあるかなどを聞き取り、それを日々の保育で生かしています。
保育士をしていて、どんなことにやりがいを感じますか?

保育士として子どもたちのために環境を整え、さまざまな働きかけをするのですが、それに対して子どもたちが応えてくれたり、意欲を高めてチャレンジしてくれるとやりがいを感じます。とくに4、5歳の子どもたちは、即座に反応が返ってくるから面白いです。例えば、けん玉もただ置いておくだけじゃなくて、「けん玉検定をやってみよう!」と声かけをすると、みんな夢中になってやるんです。中には、けん玉に興味がなかった子も一生懸命やり始めて、最後には「もしもしかめよ」がとんでもなく上手にできるようになったり。子どもたちが成長していく姿を目の当たりにできる、素晴らしい仕事だと思っています。
逆に、苦労しているところはありますか?
子どもたちに、集団生活における「社会性」をどう身につけさせるか、という点に難しさを感じています。 やりたいことができる環境は、もちろん大事なことです。ただ就学前の5歳児には、「みんなのために」動くことや、「みんなと一緒に」頑張るという、社会に出てから必要な力を養うことも重要です。その意義を子どもたちにどう伝えていくか。「やりたくない」と消極的な子に対して、どうしたら意欲を高める働きかけができるか。日々、このアプローチに苦心しながら試行錯誤しています。
ジェンダーバイアスのない、
夢を語れる子どもに
保育士として仕事をする中で、
性の違いを感じることはありますか?
私たちの園では普段から、職員同士も「男性だから」「女性だから」ではなく、個人の資質によって、できることやできないことをサポートし合うようにしています。例えば、力仕事があるときに、「男の先生、来て!」ではなくて、「力に自信がある人、来て!」と声かけをするんです。結果的に男性保育士ばかりになることもありますが、これは性別で役割を決めないという園の方針を子どもたちに示すためです。運動にしても、女性で得意な方もたくさんいます。私は昔、ダンスをしていたので、ダンスの振り付けなどを頼まれることもあります。こうした多様な姿を子どもたちに見せていくのが、園の方針であり、私たち保育士の考え方です。
最近では男性保育士も増加傾向にありますが、
働いていて変化を感じますか?

私が働いている新宿せいが子ども園では、保育士約40人中、園長と副園長を含めて15人が男性と、男性保育士が比較的多い環境になっています。「え、男性なのに保育士?」と言われることもなく、まわりの男性保育士に聞いても、あまりそういう経験はないようです。よく、男性が少ない保育園では、ロッカーを使う時に気を遣うと聞きますが、そういった点で困ることもないですね。一般的には女性が圧倒的に多い職業ですが、園に2~3人の男性保育士がいれば「けっこう多い」という印象だったのが、全体として少しずつ増えてきている実感はあります。
男性保育士が保育の現場で、女の子の着替えなどの手伝いしなくてはいけない場面もあると思います。そのあたりで気をつけていることはありますか?
最近は特に報道されることも多くあり問題になっていますが、私も常にそれは意識しています。例えばうちの園では、壁がほとんどなく、監視カメラもいくつも配置されています。何か問題や誤解が起きないように、保育をする際にはまわりから見えない場所には行かない、カメラの死角にはなるべく行かないなど気をつけるようにしています。
新宿せいが子ども園が実践する「見守る保育」の中で、子どもたちの言動からは、ジェンダーバイアスのないフラットな関係性を感じますか?

保育士同士でも、ジェンダーバイアスが生じないように配慮した発言を心がけるようにしています。そういう環境にあってか、男の子でも保育士になりたいという子もいますし、女の子でも虫博士や科学者になりたいと話してくれる子もいるんです。この園の環境で育ってきて、そういった性別の固定観念にとらわれない夢を語ってくれることがうれしいですし、一つの結果なのかなと思います。
当園では、「保育園は社会の縮図であるべき」という考えを実践しています。女性の保育士がいれば、男性の保育士もいる。また、若い保育士がいればベテランの保育士もいて、私のように脱サラをして保育士になった人間もいる。多様な人間がいる中で、子どもたちが社会を学んでいくんじゃないかなと思います。子どもたちも私たち保育士の姿を見て、多様な夢を描いてほしいです。
ジェンダーバイアスを意識した声かけも
普段からしていますか?
先日も、『ピンクはおとこのこのいろ』という絵本を子どもたちに読んであげたんです。すると意外にも、子どもたちはそういった感覚に縛られていないんだなと感じました。それでも、「男の子だから」「女の子だから」という言葉が出た時には、「それは関係ないんじゃないかな?」というように、言葉で働きかけるようにしています。
最後に、保育士になりたいと思っている子どもたちや、親御さんに向けてメッセージをお願いします。

保育士は、ただ子どもを預かるだけの仕事ではありません。教育者として子どもたちを観察しながら、「今必要なものは何か」「どういう環境を作って成長を支えるべきなのか」を考え議論していく、社会にとって不可欠な専門職だと思います。少子化の現代社会にこそ大切な仕事ですし、乳幼児教育の重要性の高まりを肌で感じているので、保育士を目指すお子さんには「素晴らしいですね」と声をかけたいです。もし、お子さんが「保育士になりたい」と言ったら、親御さんにはぜひ全力で応援してあげてほしいです。