11歳長男が、常識外の新ビジネスを考案した〈お父ちゃんやってます!加瀬健太郎〉

(2022年3月4日付 東京新聞朝刊)

 仕事に行く僕を見送り、帰りを出迎えてくれる家族がいる。うれしい。その家族とは、ゲーマーの長男でも、マンガ漬けの次男でも、テレビに夢中の三男でも、家事に忙しい妻でもなく、僕のアイドル四男。

 僕が家を出る時は玄関で泣き、帰ってきたら大急ぎで駆け寄ってくる。僕は四男をギュッと抱きしめ、「これが愛なんだ」とほっぺをすりすりする。でも、わかってる。四男もいずれは上の3人のようになる。心の抗体はできているつもり。

 そんな僕にある日、「商売考えたんだけどさ」と長男が言ってきた。

 兄弟で一番お金に興味のある長男。親が不安定極まりないフリーランスのカメラマンだと、子どもの方がしっかりしてくるのか。小学生ながら起業家の資質あり。もしビジネスで成功したら、宇宙に行ったり、ツイッターでお金をばら撒(ま)いたりしないで、父さんにばら撒いてくれるよう、しっかり言っておこう。

 ということで、彼のビジネスについて聞いてみた。「まず、お菓子屋で10円の当たりつきのガムを買うでしょ」と長男。かなりセコそうな商売だが、常識にとらわれていては、ビジネスチャンスを逸してしまう。黙って話の続きを聞く。

 「それで、当たりを出して交換するでしょ。そのガムでまた当たりを出す。これをずっと続けるの」「……」。あんた、それビジネスじゃなくて、ギャンブルだよ。念のため、「ハズレがでたらどうすんの?」と聞くと、「悲しい」と長男は笑った。

 そんな未来のスティーブ・ジョブズは、いつだってステイハングリーらしく、おやつが入っている棚をがさごそするのが癖。

加瀬健太郎(かせ・けんたろう)

 写真家。1974年、大阪生まれ。東京の写真スタジオで勤務の後、ロンドンの専門学校で写真を学ぶ。現在は東京を拠点にフリーランスで活動。最新刊は「お父さん、まだだいじょうぶ?日記」(リトルモア)。このほか著書に「スンギ少年のダイエット日記」「お父さん、だいじょうぶ?日記」(同)「ぐうたらとけちとぷー」(偕成社)など。11歳、9歳、4歳、1歳の4兄弟の父。これまでの仕事や作品は公式サイトで紹介している。

コメント

  • 飾らない表現に家族への愛があって、くすっと笑えて、子どもたちも自然体で写真におさまり、毎回読むのを楽しみにしています! 新聞連載のレイアウトも好きで、ほのぼのします
    miya 女性 40代 
  • 文章が素敵で、写真が楽しくて、見つけたときに一気に拝読しました。 連載を楽しみにしています。
    Hanahana 女性 40代