PTAのあるべき姿は? 都小Pが全国組織「日P」から退会 各校のPTAでも解散の動き

山田祐一郎 (2023年8月6日付 東京新聞朝刊)

日本PTA全国協議会からの退会を伝える東京都小学校PTA協議会のかわら版

 担い手不足や役員の負担などが取り沙汰されるPTA。学校に通う児童・生徒のため、家庭や学校などが協力して活動を行う組織だが、そのあり方が見直されつつある。各校のPTAを束ねる団体が、全国組織の「日本PTA全国協議会(日P)」から退会したり、「単位PTA(単P)」と呼ばれる各校のPTAでも解散する動きが出てきている。いま、あるべきPTAの姿とは何か、関係者に聞いた。

「日Pから退会して困っていることはない」

 「上部団体との一方通行とも言える関係は見直すべきでは、という議論は以前からあった。日Pから退会したことで、困っているということは現時点ではない」と話すのは「東京都PTA協議会(都P)」の岡部健作会長(49)。昨年度、「東京都小学校PTA協議会(都小P)」会長として日Pからの退会を提案した。

 約1300校ある都内の公立小学校の約15%に当たる約190校のPTAが加盟していた都小Pは今年3月末で日Pを退会。4月から名称を改めた。公立小中一貫校の中学校も対象に、会員と非会員の区別や会費をなくし、PTA活動の担い手である役員の支援を目指す。都小Pが一時退会後に再加盟した例があるが、64あった都道府県・政令市の会員団体が正式に日Pを退会するのは例がないという。

 決断のきっかけは、新型コロナの感染拡大で学校が休校し、PTAやその上部団体の活動も大きく変化したことだという。「これまで保護者向けの講演会などの一般的な活動をやってきたがコロナによってほとんどできなくなった。原点に立ち返って市区町村のPTA連合会(P連)や各校のPTAを向いた活動をしたいと考えた」と振り返る。

 コロナ後、都小Pは会員・非会員含め都内すべてのP連、単Pに公式に使えるメールアドレスを提供。現在、400校以上のPTAで利用されている。また、「Zoom会議のコツ」をテーマにしたセミナーをオンラインで開催するなどの支援を実施。都Pに移行後もIT支援や運営支援などを活動の柱に据える。だが昨年度からの変化や活動内容の周知が課題として残る。

「原点に立ち返った結果」と全国組織からの退会を振り返る岡部健作さん=東京都港区で

児童1人当たり10円を日Pに払っていた

 都小P時代は会員PTAから児童1人当たり20円の会費を集め、そのうち10円を日Pへと払っていた。だが「文科省からの通達といった連絡事項にしても、どこまでPTAのためになるのか。お金の問題だけでなく、自分たちの活動を見直したら、そもそも日Pとは向いている方向が違うと感じるようになった」と、ピラミッド型の組織構造に疑問を投げかける。

 PTAを巡っては名古屋市で、市立学校が手続きをせずに独断でPTAから物品などの寄付を受けていたケースが多数判明した。エアコンやプロジェクターなどの備品で、寄付額は2022年度までの5年間で計約1億5000万円相当。PTAが「学校の財布」となっている現状が明らかになった。

 PTAも時代に合わせた変化が求められている。都小Pが昨年、実施した保護者意識調査では、PTA活動で変えたいことについて「スリム化」「活動の柔軟性」「意識改革」などに多くの回答が寄せられた。一方で保護者は「学校のことがよくわかる」「子どもの安全を守ることができる」「保護者同士のコミュニケーション」などをメリットとして感じている。

 「保護者が子どものために組織として学校にかかわるPTAの存在意義はあると思っている」。岡部さんはこう指摘する。「前例踏襲が目的でかかわる人たちがブラックだと感じる組織なら無いほうがいい。どうあるべきなのか考え、変化していける組織が求められている」

コロナ禍で「PTAがなくても学校は回る」

 PTAはどうあるべきなのか。保護者が「解散」を選んだケースもある。

 「新型コロナでほぼ2年間、活動がなく会費も集めなかった。そこで気付いたのが『PTAがなくても学校は回るのでは』ということ」。全校児童約560人の東京都立川市立柏小PTAは昨年度限りでPTAを解散した。5年間、会長を務めた吉沢康貴さん(40)は「全学年をまとめようとするからPTAが必要になり、経費がかかる。各学年で必要なことは学校内でできるはずだ」と解散を提案した理由を話す。

昨年度まで「PTA室」として使われていた部屋でPTA解散の経緯を話す吉沢康貴さん=東京都立川市で

解散の賛否をアンケート 反対は1人だけ

 同小PTAは昨年6~7月、解散の賛否について保護者全員にアンケートを実施。7割以上の家庭が回答し、賛同率は98・7%。これを受け、正式に解散に向けた決議を行った。「アンケートは学校側に納得してもらうのが目的で、8割くらいは賛同してもらえると思っていた。だがやってみると反対は1人だけ。それが答えだった」。PTA解散が知られるようになり、これまで全国から20~30件の問い合わせが寄せられているという。

 PTAがなくなった本年度は、学校側が学年ごとに保護者に手伝いをお願いする形になっているという。「自分の子どもにかかわることには保護者は協力してくれるんです。困っていることはほぼない」。これまで運動会では、トイレ掃除や駐輪場の管理、会場警備などで保護者に協力を求めていたが、コロナを経て、学年ごとに区切った開催としたことで、これらの負担は一気になくなった。

 解散を決めた時点で、余っていた会費は約200万円。修繕積立金や周年行事への準備の資金も含まれていた。「毎年度、使い切らずにプールされてきた。長年にわたる会費であり、在校生に返すということはできなかった」。保護者にアンケートを実施し、学校にパイプいすやサッカーゴールなどを寄付し、PTAの口座も解約。周年行事などで予定される支出分だけを学校に預ける形とした。

トラック2台分の荷物… 無駄が多かった 

 現在、吉沢さんら昨年度の会長、副会長でフィードバック委員会をつくり、影響調査や残務処理などを行っている。学校内にあったPTA用の部屋は、地域活動室と名を変えた。室内を見回し吉沢さんがこう漏らす。「片付けるとトラック2台分の荷物が出たんですよ。毎年、同じようなものを購入していて、のりやはさみが何個も出てきた。本当に無駄が多かった」

 PTAを巡っては近年、業務を業者に外注したりするなど、保護者の負担軽減を模索する動きが出ている。同時にSNS上では、任意である加入や会費負担が事実上強制されることに、保護者から異を唱える投稿も目立つようになっている。

 PTA問題に詳しい文化学園大の加藤薫教授(日本文化論)は「この数年、PTAの議論は盛り上がってきており、特に今年は都小Pの日P退会がニュースで報じられ活発になっていると感じる」と話す。その背景について「苦労してきた先輩保護者が自身の経験から『退会マニュアル』を作成したり、助言したりしている。その結果、知識を身に付けた保護者が教育委員会や学校、PTAに対峙(たいじ)している」と説明する。

 都小Pの退会や単P解散の動きについても「日Pを頂点としたピラミッド組織が成り立ってきたのは『PTAはやらなくてはならないもの』と思い込まされてきたから。多くの人がPTA本来の姿を知れば、このような動きが出るのは当然と言える」と指摘。その上で、求められる学校と保護者のあり方をこう強調する。「必要なのは、学校と保護者の連携や保護者による学校支援。だがそれはPTAという組織でなくてよく、学校と保護者が直接つながればいい」

<デスクメモ> PTAは、P(ペアレント=保護者)とT(ティーチャー=教師)の会。「全国組織退会」「解散」は大きな動きだが、共通しているのは、どちらも本来の支援活動などは続けることだ。保護者と学校の連携が大事なこと自体は確か。それを妨げるような「無駄」は、見直さなくては。(本)

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年8月6日

コメント

  • そもそもPTA自体不要です。 杉並区の小学校に子が通っていますが、任意のはずだったのに申請書を出すまで新しい用紙が子に渡されました。それ以降継続の意思確認もなくそのまま支払いもさせられています。
    た 女性 --- 
  • これから、文科省は「小さな学校」作りに舵を切って頂きたいものだ。中教審でも何でも良いが、学校や教員の仕事を縮減することに絞って話し合いをして欲しい。そして審議会には現場で苦労している現役教員を委員に加
    教師のバント 男性 50代