〈アディショナルタイム〉かけっこが速くなりたい! 為末大さんに学ぶ走り方㊦

谷野哲郎

 陸上男子400メートル障害の日本記録保持者・為末大さん(40)によるコナミスポーツクラブ「走り方を学ぼう!かけっこ教室」。前回㊤では主に「体を真っすぐに伸ばして走る」「スキップで地面を大きく蹴る感覚を養う」の2点がポイントであることを書きました。次はスタート。為末さんは子どもたちを一列に並ばせ、足の幅や姿勢について、説明を始めました。

転びそうなくらい、前に体重をかけて!

 「スタートには理想の姿勢があります。前に出している足のかかとの横に、もう片方のひざを付けるように座ります。そして、そのまま立ちあがる。はい。転びそうなくらい、前に体重をかけて! ここがポイントです」

 一生懸命走ろうとするあまり、両足に力を入れてしまう子がいるが、それでは良いスタートが切れない。為末さんは「前の足に8割くらいの力を入れる。前に(体重をかけて)転がってしまうくらいの気持ちで良い。その力を(スタートダッシュに)使うんです」。

「腕を振れ」よりも「太鼓をたたく感じ」

 次は腕振り。肘を90度に曲げ、前後に振るのがスタンダード。親指の先はあごの位置にくるように。「ただし、小さい子に腕を振れというと、腕に意識が行き過ぎてしまう。小学2、3年生くらいまでは自由に走らせた方が良いのかも」。伝え方も気を配り、言うのであれば、「腕を振れ」よりも「太鼓をたたく感じで」と言う方がイメージが沸きやすいそうだ。

 このかけっこ教室は保護者も見守った。主催したコナミスポーツクラブの大谷英明広報によると、同社には「速く走れるようになりたい」「ほかのスポーツに生かすために正しい走り方を習得させたい」との要望が多く寄せられており、今年からかけっこ教室を開始したという。

他の子と比較はNG タイムをほめよう

 では、親の立場では何をすべきか。為末さんは「陸上はタイムという指標があるので、親がタイムを測って『速くなったね!』ってほめるのがいい。子どもって技術的なことを言われても、何が悪いのか分からないことが多い。矯正はとても難しいんです。何がよかったかだけを伝えるのがいい」。

 友だちの目を気にし出すのもこの年頃で、自信がないことには挑戦しなくなる。他の子と比較したり、できないことを指摘するのはNG。「繰り返しになりますが、体をピッと真っすぐにする、大きく走るのが大事。それを褒めてあげる。悪いところを指摘するのではなく、『大きくダイナミックに弾むように走ると褒められるんだ』という感じをつかませるくらいでよいのでは」

覚えた動きは、あとで引き出せるんです

 為末さん自身にも4歳のお子さんがいるが、「子どものモチベーションを保つのは難しい。うちもなかなか走りたがらない(笑)。もし、走りたいと思えたら、それだけで才能なんです」と柔らかな視線を子どもたちに向けた。

 最後に為末さんが話した言葉が心に残った。「経験は言葉と似ていて、このくらいの年齢で覚えた動きはあとで引き出せるようになるんです。『あ、これは水泳のクロールの感じかな』とか。だから、10~12歳くらいまでは、なるべく多様な体験をさせて、引き出しを増やすのがいいと思います」。なるほど。大人も学べたかけっこ教室だった。

◇コナミスポーツクラブ「走り方を学ぼう!かけっこ教室」公式サイトはこちらです。

 「アディショナルタイム」とは、サッカーの前後半で設けられる追加タイムのこと。スポーツ取材歴30年の筆者が「親子の会話のヒント」になるようなスポーツの話題、お薦めの書籍などをつづります。