子どものスポーツで大切な「マインドセット」とは? ラグビー元日本代表主将が解説〈アディショナルタイム〉

谷野哲郎
コラム「アディショナルタイム」
 体を動かすスポーツは、子どもたちにとって楽しいものであるべきです。同時に、競技を通じて、何かを学ぶことも重要です。今回は元ラグビー日本代表主将の廣瀬俊朗(ひろせ・としあき)さんが参加した中・高校生向けのイベントから、「マインドセット」の大切さについて学んでいきたいと思います。
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中高生のオンラインイベントにゲスト出演した廣瀬俊朗さん(ⓒB.LEAGUE)

先入観から脱却→W杯で歴史的勝利

 この催しは男子バスケのBリーグが主催して2月22日にオンラインで行われました。廣瀬さんはゲストとして登場。「世界と戦うとは」などのテーマで韓国バスケットボールリーグ・原州で活躍する中村太地選手とともに、自らの体験を子どもたちに語りました。

廣瀬さんといえば、ドラマ「ノーサイド・ゲーム」に出演した役者として有名ですが、元々はラグビー選手。エディー・ジョーンズ前ヘッドコーチ(HC)の下、2012年から日本代表の主将を2季務め、2015年のワールドカップ(W杯)では出場こそなかったものの、まとめ役として、南アフリカなどを相手に歴史的3勝を挙げたチームを支えました。

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日本代表キャプテンとして、エディーHC㊨と握手する廣瀬さん=2012年

 弱かったチームを変えたのは何だったのか。「僕らが一番最初に取り掛かったのは、マインドセット、心構えかなと思っているんですよ」と廣瀬さん。「マインドセット」とは聞き慣れない言葉かもしれませんが、「先入観」「思考の癖」「無意識の思い込み」と思ってもらえるといいでしょう。

 「日本人は(体格が)小さい。相手は強いし、速い。経験もある。勝てなくて当たり前と思っていたんですけど、いや、日本人だってたくさんいいところがあるし、そこを伸ばしていけばいいんだよとエディーさんから教わりました」と語りかけました。

「成長」と「成功」 2つの軸を持つ

 ラグビーはスポーツの中でも番狂わせが起きにくい競技と言われています。そんな中で日本は2013年に世界の強豪・ウェールズに初勝利。徐々にマインドセットを変えていきました。廣瀬さんは、海外の選手を見て、連動性や80分間走り続ける耐久性、献身性は、日本の方が勝っていることに気付いたと言い、「あの頃はやる前から、勝てないだろうなと言い訳ばかりを探していた。ここを変えてもらえたのが大きかった」。

 廣瀬さんが伝えたかったのは、固定観念を捨て、やる前からあきらめないこと。言い訳作りをしないこと。そして、マインドセットを変えるために、プロとして大事にしていることとして、「皆さん、自分の中で、成功と成長、この2つの軸を持つといいんじゃないかなと思いますね」と答えました。

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現役時代は日本代表として活躍した廣瀬さん

 成長と成功。2つの軸とは何なのか。ここからは子どもたちに語りかけた本人の言葉をそのまま載せましょう。

 「試合に出たり、勝ったりすることは成功で、試合に出ることはすごく大事ですけど、最終的に監督とかが決めることなので、自分ではいかんともしがたいところがありまして。じゃ、試合に出られなかったら全部だめなのかと言われたらそうでもない。以前できなかったことができるようになってきたら、それはすごいことなんです」

 「あと、試合に出るか出ないかは相対的なものもあると思うので、周りのメンバーとのバランスとかそういうのも含めて、周りの中で、僕自身がどう試合に出ていけばいいんだろう、自分らしさは何だろうみたいなところはありますね」

 「じゃ、自分らしさをどう見るのかといったときに、相対的なところが必要で、このあたりはとても大事かな。もちろん、成功するために頑張るんですけど、例えば、このコロナ禍で、そもそも試合がなくなりました。(試合や勝つことが)できないわけですよね。もし、そのときに成長という軸を持っていたら、こんなとき自分に何ができるんだろうと考えられる。もしかしたら、競技じゃないところを、本を読むところかもしれませんし、フィジカル鍛えるのかもしれませんし。そういう意味でも成功と成長、2つ軸があるといいなと思います」

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チームメートと笑顔で記念撮影する廣瀬さん(前列左から3人目)

 米国の心理学者キャロル・ドゥエック氏によると、マインドセットには、

①自分の能力は変わらないとする硬直化した考え方の「フィックスト・マインドセット」

②自分の能力は成長させることができるとしなやかに考える「グロース・マインドセット」

の2種類があるそうです。意訳すれば、物事は変わらないと考えるか、変わると考えるか。これまでは失敗してきたけど、次は成功するかもしれない、変わるかもしれないと考える「グロース・マインドセット」を「成功のマインドセット」とも呼ぶ人もいます。廣瀬さんら日本代表はこの「グロース・マインドセット」を意識し、自分たちを変えていったのです。

スポーツの意義とは?「楽しむもの」

 最後に廣瀬さんはスポーツの意義について語りました。「日本は体育の授業の延長線上みたいなところがあるのですが、海外では、スポーツを楽しむものと捉えている。週末だけクラブハウスに来てお酒を飲みながら試合を見る人もいるし、ボランティアを行う人もいる。あらゆる人がスポーツを楽しんでいるんですね。その違いははっきり感じます」

 あらためて考えてみると、スポーツは、成功であったり、成長であったり、それら全てを楽しむものだと思います。思い込みや先入観を変えるのは難しいことですが、「変えてみよう」「変われるかも」というマインドセットは、スポーツだけでなく、子どもたちの人生を豊かにする鍵になるのかもしれませんね。

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イベントで子どもたちと触れあう廣瀬さん

「アディショナルタイム」とは、サッカーの前後半で設けられる追加タイムのこと。スポーツ取材歴30年の筆者が「親子の会話のヒント」になるようなスポーツの話題、お薦めの書籍などをつづります。
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  • 匿名 says:

    先日、高3の息子が部活を卒業しました。バスケ部でした。それほど強い学校じゃないので夏の大会の予選の2回戦で負けて部活を終えました。レギュラーと控えの中間で試合には出たり出なかったりで、本人も悩みながらの部活だったと思います。親として何て声をかけていいか、悩んでスマホで調べているうちにこの記事に出会いました。そして成功と成長という言葉がすごく心に響いて、息子にこの記事を教えました。ラグビーのドラマで広瀬さんを知っていたからか、違う競技の人でしたが、すぐに息子も興味を示し、「うん。僕は成功しなかったかもしれないけど、3年間でいろいろ成長はしたよ」と話してくれました。あらためて記事を読みなおすと、息子のことがかかれているようで涙が出ました。今、息子の机には後輩からもらった記念の色紙が飾ってあって感謝やねぎらいの言葉がたくさん書かれていました。確かにいろいろ成長したようです。これから息子は受験です。部活で培った心をバネに頑張ってほしいと思っています。

  • 匿名 says:

    アディショナルタイムの新しいのを早く読ませて。

      
  • 匿名 says:

    若いころの廣瀬さんの写真が見れて、GOOD。あのころのジャパンはどうにかしてW杯で1勝しようとしたり、予選リーグを勝ち上がろうとしててぎらぎらするものがあった。日本W杯の躍進はエディーとその仲間たちの努力なくしてありえなかったと思う。今回子供たちもマインドセットのことを学んだし、これはラグビーだけじゃかうてすべての学生に読んでもらいたい。考え方を変えて、適切な努力をすれば夢はかなう。それを廣瀬さんは教えてくれている。

      
  • 匿名 says:

    廣瀬さんの記事を拝見させてもらいました。ラグビーは紳士のスポーツですし、夫がラグビー経験者なので子供が大きくなったらやらせたいと思っています。考え方、強みを生かして戦うなど、勉強になりました。

      
  • 匿名 says:

    ラグビーファン歴2年のわたし。広瀬さんはあこがれの人で、とても楽しく見させてもらいました~。マインドセットという言葉は聞いたことがあったけど、よく知らなかったのでこうやって解説をしてくれると理解できました。子供もそうだけど、大人もスポーツをするしない関係なくためになるんじゃないかな。やる前からあきらめないこと。言い訳づくりをしないことは広瀬さんらしい言葉じゃないでしょうか。リーチマイケルさんの記事も読みたいです。

      
  • 匿名 says:

    廣瀬さんの体験談がつづられていて勉強になりました。試合に出ることや勝負に勝つことも大事だけど、それとは別に自分自身が成長しているかどうかが大事というのはレギュラーを取れなかった子供たちの支えになると思います。うちの子はソフトボールをしていますが、参考になりました。あと、廣瀬さんは日本代表のキャプテンを外されたりしたと聞いたので、そのへんの葛藤やどうやって乗り越えたかも読みたかったです。

      

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