野村克也監督の教えに学ぶ、子どもの叱り方 コロナ休校でイライラしがちな親たちへ〈アディショナルタイム〉

谷野哲郎
 新型コロナウイルスの影響で休校が相次いでいます。子どもと一緒に過ごす時間が長くなると、細かいことにイライラして、つい叱りがちになりますよね。だけど、ちょっと待ってください。皆さんは正しい叱り方をしていますか? 今回は日本のスポーツ界を代表する2人のリーダーの叱り方から、子どもたちの育成法を考えたいと思います。
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一緒にいる時間が長くなるとついつい細かいことをガミガミ言ってしまいがちだが…

手を抜いたら叱るが、ミスは叱らない

 今年2月に亡くなった野村克也さんはプロ野球を代表する打者であり、優れた指導者でもありました。南海、ヤクルト、阪神、楽天で指揮し、リーグ優勝は5回(うち日本一3回)。教え子にはニューヨーク・ヤンキースの田中将大投手や侍ジャパンの稲葉篤紀監督、ヤクルト高津臣吾監督らが名を連ね、現在の球界を支える多くの人が野村さんの薫陶を受けました。

 そんな野村さんがキャンプで必ず行ったことがあります。練習後に毎晩、選手を集めて講義をしたのです。時間を割いたのは野球の技術よりも、人間学について。「失敗と書いて、成長と読む」「負けに不思議の負けなし」など。選手やコーチ、記者まで含蓄のある人生訓を多く教わりました。

 前回紹介したロッテの吉井理人投手コーチも野村さんに学んだ1人です。吉井さんは現役を引退してコーチになりたてのころ、野村さんに「選手の叱り方が分からない」と悩みを相談したことがあったそうです。


〈前回はこちら〉子育てにも役立つ「コーチング」 答えを教えず、主体性を尊重して導こう


 すると、野村さんの答えは「そんなん簡単や。手ぇ抜いたときや」だったそう。「でもな、選手のミスは絶対に叱っちゃあかん。本気を出さんとき、手を抜いたとき、そんときだけ怒れ」と教えられたそうです。親から子どもを見れば、多くのことが気になってしまいがちですが、「手を抜いたときだけ叱る」というのは、シンプルで参考になりますね。

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「手を抜いたとき、そんときだけ怒れ」と話していた野村克也さん㊨

「心が変われば、人生が変わる」

 このほかにも、野村さんは教育に役立つ多くの言葉を残しています。多すぎてここで書き切れませんが、私が覚えているのは、「心が変われば、人生が変わる」という言葉です。

心が変われば、態度が変わる。

態度が変われば、行動が変わる。

行動が変われば、習慣が変わる。

習慣が変われば、人格が変わる。

人格が変われば、運命が変わる。

運命が変われば、人生が変わる。

 これは野村監督が好んで使った言葉で、多くの野球関係者に知られる名言の一つ。感銘を受けた先生も多く、この言葉を印刷して校内に張り出しているところもありました。心のありようが、人生を変えてしまうというのは、新型コロナで混乱が続く今だからこそ、身に染みます。子どもたちだけでなく、親も勉強になる言葉ですね。

「ミスターラグビー」平尾さんは?

 2人目は「ミスターラグビー」の愛称で親しまれた平尾誠二さん。2016年に53歳の若さで亡くなったのが残念でなりませんが、平尾さんが残した考え方、組織論は今なお、多くの指導者の中に生きています。

 ラグビー日本代表は昨年のW杯で8強入りしましたが、1997年から2000年まで日本代表監督を務め、日本のラグビーの礎を作ったのが平尾さんでした。そんな平尾さんはリーダーの条件として次のような言葉を残しています。「媚(こ)びない、キレない、意地を張らない」。この言葉は2017年に発刊された「人を奮い立たせるリーダーの力」(マガジンハウス)の中に収められています。

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 平尾さんはテレビドラマ「スクール☆ウォーズ」のモデルとなった京都・伏見工業高のラグビー部でキャプテンを任されたとき、リーダーが備えるべき3つの条件として、上記の信条を考えたそうですが、親が子を叱るときのルールにも聞こえます。特に「キレない」は、自分の不満を怒って晴らそうとしているだけではないかと、常に注意をしていたそうです。

山中伸弥さんが教わった「4つの心得」

 同書では同じ年で親交があった京都大iPS細胞研究所の山中伸弥所長が、平尾さんから教えられた「人を叱るときの4つの心得」を記しています。

①プレーは叱っても人格は責めない

②あとで必ずフォローする

③他人と比較しない

④長時間叱らない

 確かに、子どもにしてみれば、③の「○○さんちの△△君はテストで100点を取ったんだって」や、④の「何でそんなにスマホばかりやってるの。毎日毎日同じことを言わせて。大体、昨日も…」などと言われても、心に響かないでしょう。見ると、どれも今日からできそうなものばかり。ラグビーだけに一度「トライ」してみてはいかがでしょうか。

叱ると褒めるは同じ 「怒る」は違う

 最初に紹介した野村さんは「叱ると褒めるは同義語」とも話していました。「叱るのは、その人に成長してほしいから。そこには愛情がある。愛情がないと叱らないやろ。褒めてるのと同じや。一方、怒るのは自分の怒りを出しているだけ。怒られているのではなく、叱られていると思わせることが大事」。2人とも口をそろえるのが、怒るのではなく、叱ること。多くの選手を育てた故人の知恵は、皆さんの子育てにも役立つことでしょう。

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  • おかっぴい says:

    野村克也さんのおしえは亡くなった今でも生きていると実感しました。

    おかっぴい 男性 40代
  • 匿名 says:

    ここに書かれている話は全部素晴らしい。スポーツの持ついいところが表れていると思う。心が変われば人生が変わる、か。座右の銘にしたい言葉。

      
  • 匿名 says:

    野村監督は素晴らしい監督で、何度も弱小球団だったヤクルトを優勝させました。その原動力は人材活用でした。子供も育成にも通じますよね。

      
  • 匿名 says:

    千葉県に住んでいます。子供達の学校が始まらない、早く緊急事態宣言が解除になって欲しい。コーチングは小学生と中学生には難しかったようで、少しずつ自分たちで考えさせるようにしています。

      
  • 匿名 says:

    いつも拝見しております。スポーツと子育てに関して興味深い記事なので、子育ての参考にさせてもらっております。グリーンカードの話や小平奈緒さんと樹木希林さんの話が印象に残っています。今回の、心が変われば人生が変わるは、紙に書いて子供の机に貼ります。これからもスポーツ選手の考え方や子供とスポーツについて、勉強できる記事をお願い致します。みいちゃんママ

      
  • 匿名 says:

    コロナで巣籠もり中の息子の叱り方の参考にさせてもらいました。だらだらだらだら過ごしてる息子に手を抜いてると思ったからです。切れずに、意地を張らずに話しました。わかってくれたのかどうか分かりませんが、前回のコーチングも参考に、答えを言わずに考えさせました。コロナで学校も部活もなくて、このまま行けば時間の無駄に終わってしまう。何か一つだけでも、成長して欲しいのです。

      
  • 匿名 says:

    「人生の2文字には4つが意味がある。人として生まれる。人として生きる。人を生かす。人を生む」野村さんの言葉で一番好きな言葉。親ならば、人を生かす、生むを考えないといけないのでしょう。前回のコーチングも面白く読みました。

      
  • 匿名 says:

    私は平尾誠二さんが大好きで本をたくさん持っています。リーダーシップについて詳しく書かれていることが多いのですが、リーダーシップと教育、子育ては基本が同じ。怒らす叱るはあらためて深い言葉だと感じました。多くのパパママに知ってもらいたいですね。(二児の親より)

      
  • 匿名 says:

    「叱ると褒めるは同義語」は名言。野村さんが生きていたら、今のコロナ自粛でどんなアドバイスをくれただろう。平尾さんの言葉も参考になる。

      
  • 匿名 says:

    「心が変われば~人生が変わる」は、うちの学校の野球部の部室に張ってあったのを思い出した。それにしても「手を抜いた時だけ怒る」は目からウロコが落ちた。

      

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