”妊婦税”だと炎上、凍結された「妊婦加算」 調べてみると…開始前の意見募集は8日間だけだった 

(2019年1月27日付 東京新聞朝刊)
 世論の反発を受けて今月から凍結された「妊婦加算」を巡り、そもそも昨年4月の導入に当たって「意見公募(パブリックコメント)をしていないのではないか」と疑問の声が神奈川県の男性から寄せられた。調べてみると、実施はされていたが、期間が8日間と短く、一般市民は公募に気づきにくい状況だった。患者目線を欠いた妊婦加算は、国民の意見を十分に考慮せずに実施に移されていた。 

診療報酬を上乗せ→支払いが増える仕組み

 妊婦加算は、2018年度の改定診療報酬に盛り込まれた新設項目。妊婦には投薬などに特別な配慮が必要で、産婦人科以外の医療機関が診察に消極的な傾向があった。これを改善するために、妊婦が医療機関を外来で受診した際、初診で750円、再診で380円が診療報酬に上乗せされる仕組みだった。

 国の行政機関は省令や政令を定める際、パブコメの実施が行政手続法で義務付けられ、期間は30日以上と規定されている。診療報酬改定は、厚生労働相が中央社会保険医療協議会(中医協)に具体的な内容を諮問し、答申を受ける手続きで進む。あくまで医療の価格の見直しで、省令や政令ではないため、パブコメを実施する義務はない。

寄せられた意見に妊婦加算への言及なし

 それでも、厚労省はパブコメを慣例として行ってきた。医療費の増減は国民生活に影響が大きいからだ。ただ、期間は1週間程度で、法定の30日以上より大幅に短い。今回は18年1月12日、中医協への諮問と同時に厚労省のホームページに告示し、同月19日まで行った。結果は同月末に公表。電子メールと郵送で597件の意見が寄せられたが、妊婦加算への言及はなかった。

 意見公募に際し、ホームページに掲載した「これまでの議論の整理」(34ページ)には、妊婦加算の記述は「妊婦の外来診療について、妊娠の継続や胎児に配慮した適切な診療を評価する観点から、初診料等における妊婦加算(仮称)を新設する」との一文があるのみ。医療関係者の関心は低く、厚労省からも「それほど大きな議題という認識はなかった」(中堅職員)との声が漏れる。

 妊婦加算は、次回20年度の診療報酬改定で見直しを含めて再検討される見通しだ。その際のパブコメは慣例通りなら同年1月に実施される。診察が難しいとされる妊婦が外来診療を受けやすくし、自己負担を増やさない仕組みとして、自治体による助成制度などを提案する医師らも多い。

学習院大の常岡孝好教授(行政法)「資料が抽象的で分かりにくい」

 意見は600件近くあり、医療関係者らは提出したと思うが、一般市民からが少ない。期間が短すぎて提出できなかった人もいるのではないか。余裕を持ってパブコメを実施できるようにすべきだ。

 さらに問題なのは、改定原案や参考資料が抽象的で分かりにくいことだ。全体は膨大で、妊婦加算の記述が埋没している。外来診療で妊婦の支払いが増えるなどの具体的な影響の説明がない。一般市民が重要性に気付きにくく、意見の出しようがないとも言える。今回のパブコメは意見公募制度の運用面での問題点に改めて気付くきっかけを与えてくれた。

妊婦加算の凍結 

 昨年4月の導入後、コンタクトレンズの処方など妊娠と関係ない診察にも加算される事例などが相次いだ。秋ごろから妊婦らが会員制交流サイト(SNS)上で話題にし、瞬く間に「妊娠税だ」「少子化対策に逆行する」などと批判が広がった。厚労省は12月、適切な診療にのみ適用する厳格化を検討したが、世論や与党から反発を受けて凍結を決定。今年1月から上乗せ分の医療機関への支払い、妊婦からの徴収を停止。妊婦医療のあり方は厚労省内に有識者会議を立ち上げて検討し、2020年度の診療報酬改定に盛り込む方針。