妊婦は早めにワクチン接種を! 専用病床はギリギリの状態 感染したらすべて帝王切開の病院も

植木創太 (2022年3月1日付 東京新聞朝刊)

対策を徹底して、感染した妊婦を診察する医師ら=名古屋市の日赤愛知医療センター名古屋第二病院で(同病院提供)

 オミクロン株が猛威を振るう新型コロナウイルスの流行第6波では、妊婦の感染が相次ぐ。妊婦は重症化しやすいとされるが、治療はその後の分娩や、医療スタッフ、新生児の感染防止を見据える必要があり、受け入れ可能な施設は限られている。そのため、医師は「妊婦と周囲はワクチン接種を含めた感染対策の徹底を」と訴える。

人手と手間 医療者の感染リスクも考慮

 「妊婦の感染が続き、1月後半から専用病床はギリギリの状態」。日赤愛知医療センター名古屋第二病院(名古屋市)の加藤紀子第二産婦人科部長(60)は明かす。同病院は、愛知県内に24ある感染妊婦の受け入れ先の一つだ。

 2月28日までに愛知県産婦人科医会にあった報告によると、県内で感染が確認された妊婦は同6日からの1週間が86人。翌週は72人、翌々週は38人と減ってはいるが、対応に追われて報告が遅れている施設もあり、実態はより厳しいと考えられる。中には分娩で入院した直後に発熱し、陽性が判明した例もあったという。

 感染した妊婦の分娩は、人手も手間もかかる。同病院では、ウイルスが部屋の外に出ないよう気圧を下げた陰圧室で実施。生まれた赤ちゃんは、すぐに母親から離して新生児集中治療室(NICU)に入れ、2度の陰性確認をする。自然分娩はNICUの空きが見通せない上、長時間になることが多く医療者の感染リスクが高まるため、すべて帝王切開での計画出産だ。

妊婦が「自宅療養OK」な体調の目安は?

 昨夏の第5波では感染妊婦の受け入れ先が見つからず、自宅で生まれた新生児が死亡する例が千葉県であった。これを受け、妊婦の専用病床を設ける動きが全国に広がったが、厚生労働省によると、感染の急拡大で一部の地域では対応が難しくなっている。厚労省は2月14日、かかりつけ医が状態を把握し、必要なら別の医療機関に紹介するなど周産期医療の安全を守るよう、各自治体に指示した。

 自宅で療養する妊婦に向け、日本産科婦人科学会などは昨年8月、体調の目安をまとめた。

  • 1時間に2回以上の息苦しさを感じる
  • 心拍数が1分間に110以上
  • 安静時の血中酸素濃度が93~94%から1時間以内に回復しない

―などの症状があれば、かかりつけの産婦人科医か保健所に連絡することが必要。息苦しさで短い言葉も発せない、血中酸素濃度が92%以下なら救急車を呼ぶ状況とする。

ワクチンの有効性・安全性データが蓄積 

 新型コロナの治療薬の多くは妊婦に使いづらい。感染リスクを減らすには、周囲もあらためて対策を徹底することが重要だ。

 感染制御が専門の愛知県立大教授、清水宣明さん(62)によると、密を避けるといった基本的な対策は不可欠。加えて自宅でも家族でマスクを着け、常に換気を心掛けたい。食事の時間をずらすのも有効だ。妊婦で多いのは、マスク着用が難しく、ワクチンも打てない幼児から家庭内で感染する例。幼児の世話は、可能なら家族らが担うのがいい。

 こうした対策に加え、愛知県産婦人科医会の沢田富夫会長(70)が「時期に関係なく早めに」と強調するのはワクチン接種だ。接種開始から1年がたち安全性を裏付けるデータがそろいつつある。イスラエルの研究グループが2月に発表した論文はその1つ。妊娠中に母親がワクチンを打った新生児1万6000人を調べると、早産率や奇形率などの割合は、未接種の母親が出産した新生児と明らかな差はなかった。国は2月、有効性と安全性を示すデータがそろったとして、妊婦にも接種の努力義務を課した。

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