妊娠する前から健康管理「プレコンセプションケア」の重要性 ”リスク”を減らすために

(2019年10月8日付 東京新聞朝刊)
 将来の妊娠を考える女性の健康状態を確認し、生活習慣や食事の在り方を指導する「プレコンセプションケア」。世界保健機関(WHO)が推奨し、日本では2015年、国立成育医療研究センター(東京)が、国内初の専門外来を開設した。妊娠前に正しい知識と生活習慣を身に付けることは、女性と生まれてくる子どもの健康にとって非常に重要だ。

検査結果を受けて、医師と栄養士がカウンセリング

 コンセプションは英語で「受胎」、プレコンセプションケアは「妊娠前管理」の意味。妊婦の健康状態は生まれてくる子どもの発育に影響する。禁煙や適正体重の維持はもちろん、バランスの取れた食事や運動といった生活習慣、妊娠に影響する薬や感染症についてなど、妊娠前に蓄えておくべき知識は多岐にわたる。

 今年7月に同センターの専門外来を受診した東京都目黒区の会社員女性(30)は4年前に結婚。「そろそろ子どもを」と考える中で、身長や体重、血圧、尿、血液などの検査を受け、健康状態や感染症の抗体の有無などを調べた。検査結果を踏まえて医師から、3日間の食事記録を基に栄養士から、それぞれ30分間のカウンセリングを受けた。

 その結果、分かったのは筋肉量が少なく、風疹の抗体が低いこと。心臓や耳、口などの器官が形成される妊娠9週目までの間に風疹に感染すると、生まれてくる子どもが心疾患や難聴などの重篤な合併症にかかる恐れがある。女性はすぐに風疹の予防接種を受けたほか、通勤の際に1駅分を歩くなど日ごろの運動を心掛けるようになったという。

 女性が受けたプランは保険適用外で3万5千円。安くはないが「具体的なアドバイスをもらえた。食事や生活習慣を見直すきっかけになった」と満足そうだ。

若い女性の「やせ願望」 切迫早産や低体重児に影響

 先進国の妊婦の死亡率は劇的に低下しているが、先天性障害のある子や未熟児の割合は減っていない。プレコンセプションケアを担当する同センター母性内科診療部長の荒田尚子さん(57)が問題視するのは、若い女性の「やせ願望」だ。無理なダイエットは健康を損なう危険が少なくない。

 厚生労働省による2017年の国民健康・栄養調査によると、体重と身長から算出する体格指数(BMI)が18.5未満の「やせ」は20代で22%、30代で13%に上る。妊婦がやせすぎの場合、切迫早産や低出生体重児の出産につながりやすい。生まれた子どもが、糖尿病などの生活習慣病にかかる危険も増える。子どもの平均出生体重は減り続けており、同年の調査では、10人に1人が2500グラム以下の未熟児だった。

リスク減らす葉酸摂取 妊娠に気付いてからでは…

 赤ちゃんの神経系疾患のリスクを減らすには、胎児の細胞が増える妊娠初期に葉酸を積極的にとることが大事。しかし月経が来ないと妊娠に気付くころには既に5週目に入っており、それでは遅い。必要な量を食事だけで取るのは難しいため妊娠前からサプリメントで補うと効果的という。

 同センターの外来では、検査項目を絞った学生向けのプラン(2万8千円)、交際相手や夫と一緒に受けられるプラン(6万円)も設けている。毎週金曜の予約制で、受診者は未婚、既婚を問わず20~30代女性が多い。2017年4月に本格的に外来を始めて以来、200人が受診したという。荒田さんは「寿命が延びる中、プレコンセプションケアは若いうちから健康を保つための備えにもなる」と話している。