コロナ不安で不妊治療の「延期」が増えている 収束が見えない、でも何年も待てない…夫婦の葛藤

川田篤志 (2020年7月10日付 東京新聞朝刊)
 新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、不妊治療を実施する医療機関の約9割が「患者数が減った」と回答していることが、医師や胚培養士らでつくる日本受精着床学会のアンケートで分かった。患者は感染リスクから受診をためらうが、先延ばしすれば時機を逸して妊娠しにくくなる懸念もある。

 

感染リスクも、治療候補薬の副作用も気がかり

 「コロナ収束まで待った方が良いのでは」。東京都の笹子真未さん(33)は、7都府県に緊急事態宣言が出た4月上旬、不妊治療を始めるか思い悩んだ。約2年半の不妊治療で授かった長女(1つ)に続く第2子出産に向け、治療を再開しようとしたところに、政府が不要不急の外出自粛を求めた。

 新型コロナが妊娠や胎児に与える影響は未解明な点が多く、治療候補薬アビガンの副作用も気がかり。夫(40)と1カ月間、何度も話し合い、再開を決めた。

 「決め手はコロナ収束の時期が見えないこと。先延ばしすれば妊娠の可能性が低くなり、何年も待てない」。感染への不安を抱えながら治療。6月に妊娠が分かり、胸をなで下ろした。

学会調査 医療機関の9割が「患者数が減った」

 不妊治療者を支援するNPO法人「Fine(ファイン)」には4月初めごろから、「危ないので治療を延期しようと夫から言われた」「クリニックが治療を中断しパニックになった」など20人以上の女性から相談が寄せられた。松本亜樹子理事長は「通院による感染リスクもあり、この問題に正解はない。医師や心理カウンセラーにも相談し、夫婦で納得するまで話し合って」と助言する。

 日本受精着床学会は5月下旬、不妊治療の状況を調査。全国141の施設から回答があり、9割に当たる128施設は感染拡大後に「患者数が減った」と答えた。治療を中止した施設はほぼなく、院内感染の対策を取った上、妊娠時のリスクなどを説明して患者に治療を実施するかどうか選択を委ねているという。

国の治療費助成 本年度は妻の年齢上限を緩和

 コロナ禍における不妊治療を巡っては、日本生殖医学会が4月1日、妊娠時にも使える治療薬やワクチンが開発されるまで、治療延期を選択肢として患者に示してほしいとの声明を発表。緊急事態宣言が一部で解除された直後の5月中旬の通知では、患者への十分な説明と同意の下、治療再開を考慮するよう求めた。

 厚生労働省は、治療延期を余儀なくされる事態を想定し、国の治療費助成の年齢上限を緩和。本年度に限って、治療開始時の妻の年齢を43歳未満から44歳未満に引き上げた。 

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2020年7月10日