〈男性不妊・僕がパパになるまで〉1・診断 ショック…まさか自分が原因とは

川田篤志 (2019年11月8日付 東京新聞朝刊)
 男性不妊の原因の一つで、精子を作る機能が低下する病気「精索静脈瘤」を患った入社12年目の政治部記者(38)が診断から手術、第一子を授かるまでの体験を4回にわたってつづります。夫婦間の葛藤や、不妊に対する男性の当事者意識の低さなど、男性不妊をめぐる実態と課題にも迫ります。
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生後4カ月の長女莉子ちゃんと公園で遊ぶ川田篤志記者

34歳で結婚、妻は29歳 子どもができないまま3年

 2015年、34歳で結婚し、すぐ子づくりを始めた。妻(33)は当時29歳で、「早く子どもができたら2人目、3人目もほしいね」と期待を膨らませていた。妻も別の報道機関の記者。互いに忙しかったが、行動に移せば割とすぐに授かるだろうと考えていた。しかし、子どもができないまま3年が過ぎようとしていた昨年春、「不妊症かもしれない」という疑念を拭えなくなった。

 不妊について、日本産科婦人科学会は望んでも妊娠できないまま1年が過ぎた状態と定義している。

 われわれの場合、結婚して2年間は私が前橋市、妻が東京都内に住む「別居婚」で会えるのはほぼ週末だけ。排卵日に合わせた最も妊娠しやすいタイミングに会えないことが多く、それが言い訳になっていた。ところが都内で同居を始めて1年が過ぎようとしても妊娠の兆しが見えず、危機感を募らせた。

自ら検査を決意 実は妻は「断られるのが怖かった」

 妻を不妊検査に誘うのに1カ月は悩んだ。検査で原因を明らかにすることは、私と妻のどちらに責任があるか「犯人捜し」をするようで気が重かったのだ。

 意を決して妻を誘うと、あっさり了解をもらった。後日、妻は「不妊の原因は女性にあると思われがち。私から誘って『俺は関係ない。検査は受けない』と断られるのが怖かった」と明かしてくれた。世界保健機関(WHO)によると、不妊症の48%は男性に原因があり、男女による差はないという。

 不妊治療の経験がある先輩の男性記者に教わり、昨年5月7日、2人で東京都新宿区の産婦人科を訪れ、それぞれ検査を受けた。

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莉子ちゃんは現在4カ月。不妊治療を経て、子育てに励んでいる

精子の濃度と「前進率」が不足 診断は精索静脈瘤

 精液検査の結果は2時間ほどで出た。男性医師から渡された紙の「精子濃度」と「前進精子率」の項目に赤線が引いてあった。

 1ccあたりの精子の数を示す精子濃度は1100万ほどだった。WHOの基準値では、自然妊娠に必要とされる数は1500万以上。明らかに不足していた。前に進む精子の割合を示す前進精子率は19%で、WHO基準値の32%以上にこちらも及ばなかった。

 医師はさらに私の陰のうに機器をあてて、血流を調べる超音波検査を実施。血液の逆流を示す画像を見せ、「間違いなく精索静脈瘤(じょうみゃくりゅう)ですね」と告げた。

妻は問題なし 突きつけられた「不妊の原因は自分」

 聞き慣れない単語に戸惑う中、渡された病気の説明資料に「精子を作る力が低下し、精子の質も悪くなり、不妊の原因になります」と書かれていた。

 医師は続けて、手術が受けられる都内近郊の病院を紹介していたが、ショックのためほとんど頭に入ってこなかった。

 3週間後、妻の結果は「問題なし」と判明した。不妊の原因は自分にあったという現実を突きつけられた。

〈続きはこちら〉2・葛藤 「不都合な現実」怖くて…検査まで3年、妻を傷つけた

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2019年11月8日

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