見過ごされてきた流産・死産のケア 「なかったこと」にしないでほしい 国や自治体も支援の動き
赤ちゃんをなくして 流産・死産後の支援(前編)
妊娠と診断された人の約15%に起きるとされる流産。妊娠4カ月以降の死産は、出産の2%を占める。おなかの中で育んできた赤ちゃんの死は心身の痛みを伴うつらい出来事だが、これまでそのケアはあまり注目されてこなかった。近年その必要性が重視され、国や自治体が乗り出している。支援のあり方を2回に分けて考える。
同じ体験を話せる場なら「共感」
七夕の日。大阪府東大阪市のビルの一室で、女性6人が短冊に願い事をしたためた。「お空でお友達と仲良く過ごせますように」―。流産や死産で、あるいは生後すぐに赤ちゃんを亡くした親が集う「関西天使ママサロン」。女性たちの隣には、亡くなった赤ちゃんの体重と同じ重さのクマのぬいぐるみが座る。
参加者の一人、三宅芽衣さん(31)は3年前、妊娠14週で死産した。「落ち込んで泣くこともあり、周りの人から『若いから次がある』『早く元気になれ』と励まされた。でも、大事な人が亡くなったのに、なぜ悲しむことが許されないんだろうと、家に帰って毎日泣いた」と振り返る。同じ体験を話せる場を探すうち、同会にたどり着いた。下の子を妊娠後は、死産の記憶がよみがえってさらにつらく、足を運ぶ回数が増した。この場では共感してもらえて楽に話せるという。
お空の子と、仲間とつながって
運営する大竹麻美さん(56)も流産、死産の経験者だ。死別、喪失の悲嘆に寄り添う「グリーフケア」のアドバイザー資格も持つ。6年前に当事者による自助会を始め、今は週1回以上開く。個別に話を聞くこともあり、全国から年間のべ200人ほどが訪ねてくる。
亡くなった子に名前を付けているお母さんには、その名を冠し○○ちゃんママなどと呼びかける。「子どもが死んだのに、『なかったこと』にされて傷ついている人が多い。お空の子と共に、仲間とつながることで生きていける」
65%にうつや不安障害の疑いも
近年、流産や死産を繰り返す不育症への支援が進む中、流産、死産を経験した人への心身のケアも必要との声が、当事者グループや医療界などからさらに高まり、国は対策に乗り出すようになった。
2020年には厚生労働省の事業で、流産、死産を経験した20~50歳の女性618人を調査。約84%が相談したい思いを抱えていたほか、約30%は直後に誰にも相談できず、最もつらかった時期にうつや不安障害が疑われた人は約65%だったと分かった。
妊産婦や乳幼児の健康を守る母子保健法では、流産、死産後の女性も支援対象に含むが、あまり知られていなかった。そこで、同省は昨年、あらためて全国の自治体に通知。体制整備を呼びかけ、赤ちゃんを亡くした後も健診などを受けられると示した。また、当事者のピアサポート活動や不妊・不育症のカウンセラーによる相談を支援する自治体に補助金を出す事業を創設。死産届を役所に出したのに、生きている前提で連絡を受けた人が多いため、死産届の情報共有も求めた。
無料相談や当事者団体の紹介を
自治体も呼応。愛知県では今春から、名古屋大病院に委託する不妊・不育の無料相談窓口で、流産・死産後の不安にも対応することを明記。静岡県などはホームページで当事者団体や相談窓口の案内を始めた。
愛知県の相談窓口で相談員を務めてきた名古屋市立大大学院准教授の渡辺実香さん(56)は呼びかける。「体の中で育んだ命がなくなれば、体と心の痛みはあって当然だと気付いてほしい。言葉にすることで気持ちを整理できる。一度、話してみませんか」
※赤ちゃんをなくして 流産・死産後の支援(後編)は、8月5日に掲載。職場復帰の課題について伝えます。
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