脱一人っ子の中国「2人目」認めても出生数増えず…日本に通じる問題も
出生数を長年抑えようとしてきた中国政府が出産の奨励に大きくかじを切りつつある。少子高齢化への危機感から「一人っ子政策」の緩和を進め、2016年からは全面的に2人目の子どもの出産を認めたものの、出生数が期待通りに伸びないためだ。一方で、子どもを産む女性の雇用を敬遠する企業が増えるなど、女性蔑視という副作用も出ている。
2人目には補助金、3人目以降も認める?
中国では少子高齢化が「予想以上のスピード」(中国誌・中国新聞週刊)で進む。国家統計局によると、17年末時点で60歳以上は人口の17.3%に達し、30年には25%前後と予測される。
政府の危機感は強い。特に地方政府は、産休制度の整備や2人目を産んだ家庭への補助金など出産奨励策を次々に打ち出す。また、中国メディアによると、新たな民法草案から計画出産に関する規定がなくなったほか、厚生行政を担う国家衛生健康委員会が計画出産の名を冠した3部署を廃止した。約40年続いた産児制限が全廃され、3人目以降の出産も認められるとの観測も流れる。
富裕層しか産めない…国が認めても「2人目」増えず
女性の労働問題に詳しい中華女子学院法学院元教授の劉明輝(りゅうめいき)弁護士は「政府は、2人目の出産を認めれば、出生数が増えると楽観的に考えていた」と、見通しの甘さを指摘する。
2人目の出産が可能になった16年は中国全土で1786万人の出生数があり、17年ぶりの高水準となったが、17年には早くも減少に転じた。今年はさらに減るとみられる。16年の増加分のほとんどは2人目の出産が占めたが、中国新聞週刊は「遅くとも19年には2人目の出産も大幅に減る」と予測する。1人目の出産は17年に大幅に減少した。
中国では共働きの夫婦が子ども1人に金や時間、労力を注ぐというライフスタイルが定着する。物価や住宅費、教育費が高騰し、都市部では富裕層しか2人目は産めないのが現状だ。
「女はいらない」「何人産むのか」働く母親が守られない
「女はいらない、とはっきり言う会社もある」。北京のIT企業が集まる中関村で開かれた企業説明会で、今夏に北京の名門大学を卒業した女性が声を落とした。面接で「結婚の予定はあるか」「子どもは何人産むつもりか」と、セクハラを受けることも少なくないという。
広東省広州市で女性の雇用に関する法律相談を受ける民間団体「074」の発起人、郭晶(かくしょう)さん(27)は「女性を雇いたがらない企業が増えている」と憤る。出産する可能性のある女性は以前から職探しで冷遇されていたが、2人目解禁以降は深刻化しているという。妊娠が分かった女性が出張を強要されたり、仕事を与えられないなどの嫌がらせを受け、辞職に追い込まれるケースも後を絶たない。
劉弁護士は、産休中の社会保障や税金の支払いなど企業の負担が大きいため「政府の労働部門は女性差別を見て見ぬふりをしている」と指摘。「中国の法律では何が女性差別にあたるか、具体的な規定がない。働く母親を守る法律や制度が十分ではない」と、2人目解禁に対する政府の「準備不足」を批判する。
一人っ子政策とは
中国で1979年に始まった産児制限による人口抑制策。夫婦1組に子ども1人が原則とされ、2人目以上の出産には罰金が科された。政府は「人口爆発を抑えた」と自賛するが、強制的な中絶や避妊手術など非人道的な手法が批判された。2013年には夫婦どちらかが一人っ子の場合は2人目を認め、16年から全面的に2人目の出産を解禁した。