<記者の視点>「異次元の少子化対策」岸田首相に問われる本気度

坂田奈央 (2023年1月20日付 東京新聞朝刊)

官邸で記者会見する岸田首相=2022年12月10日撮影

人口の「自然減」が初の60万人超え

 「車は余ってるんだけど、運転手がいないんです」

 地方に住む私の母は昨年、祖母の通夜の帰りにタクシーを呼ぼうとした際、そう言われて途方に暮れたという。配車を断った電話口の担当者もまた、人手不足で動かせない車が多く、大変だ、と嘆いていたそうだ。

 私自身、帰省時に最寄り駅から実家に向かうタクシーがなかなか、つかまらなかった経験はあるものの、以前はここまでの状況ではなかった。人口減少の急加速ぶりを目の当たりにし、今後ますますタクシーを必要とするであろう母を思って不安に駆られた。

政治部・坂田奈央記者

 住民基本台帳に基づく日本の総人口は2021年に初めて、死亡者数から出生数を引いた「自然減」が60万人を超えた。1年で鳥取県(人口約54万7000人)以上の規模が消失したことになる。

 背景にあるのは、出生数の低下だ。2022年は初めて80万人を割り込むと見込まれ、最新の推計より8年もペースが速い。このまま人口減少が進めば、年金や医療といった社会保障制度は早晩、立ちゆかなくなる。

子育て世代に冷たく厳しい国、日本

 問題は、深刻な人口の推移も少子化の要因も知りながら、政府が有効な対策を打ってこなかったことにある。

 2021年の国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の調査では、3人以上の子どもを持つことを理想としながら1人少ない人数しか予定しない夫婦(妻の調査時年齢50歳未満)の約6割が「子育てや教育にお金がかかり過ぎるから」を理由に選んだ。家事・育児の負担が女性に偏っていることも長く指摘されており、同じ調査で18~34歳を対象に結婚相手に求める条件を聞いたところ、女性は男性の家事・育児の能力や姿勢を重視・考慮する割合が上昇した。

 別の調査からは、長時間労働の慣習や職場の理解不足などに伴う心理的負担、望む仕事との両立の難しさといった多岐にわたる要因が読み取れる。官民を問わず、日本は子育て世代に冷たく、厳しい国になっている。

「待ったなし」なのに防衛費を優先

 政府が少子化対策に取り組み始めてから30年余りがたつ。「待ったなしの課題」と繰り返し強調してきたが、防衛力強化を優先した昨年の岸田文雄首相を見るまでもなく、本気度には疑問符が付きまとっていた。

 1月の年頭会見で、子ども・子育て予算の倍増を唱える首相は「異次元の少子化対策」を打ち出し、担当閣僚に「若い世代から『ようやく政府が本気になった』と思っていただける構造を実現すべく、大胆に検討を進めてもらう」と語った。

 財源確保など難問は山積みだが、国の持続可能性を揺るがす問題であり、いま対峙しなければ手遅れになる。首相には、長年の課題を一気に解消する政策の立案と、国民の理解、納得という二兎を得る異次元のリーダーシップを発揮してほしい。

コメント

  • 本記事、興味深く読みました。しかしながら、では、防衛費を削って多少お金を配れば産みますかね?「男性の家事・育児の能力や姿勢」「理解不足などに伴う心理的負担、望む仕事との両立の難しさ」等は、私はすごく納
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