子どもが多い世帯に減税「N分N乗」方式とは 出生率が高いフランスで導入も、日本では課題山積

(2023年2月4日付 東京新聞朝刊)
 少子化対策を巡り、子どもの数が多い世帯ほど所得税が軽減される税制「N分N乗」方式が、にわかに注目を集めている。出生率が高いフランスが導入していて、今国会で与野党から採用を求める声が相次いでいるためだ。ただ課題も多く、識者は「税制だけでなく、フランスのように仕事と子育てを両立できる多様な仕組みづくりが重要だ」と指摘する。

N分N乗方式とは

 世帯所得を家族の係数(大人は1、子ども2人目までは0.5、3人目以降は1として合計)である「N」で割り、家族係数1あたりの所得税額を算出する。この所得税額に再び「N」をかけ、世帯全体の所得税額を算出する。「N」は夫婦と子ども2人なら3、子ども3人なら4になる。

世帯所得を家族人数で割り出し課税

 N分N乗方式はフランスが先の大戦後、戦争で減った人口を増やそうと導入した。日本の所得税が個人の所得に課税するのに対し、世帯単位なのが特徴。高所得者ほど税率が高くなる累進性は日本と同じだが、夫婦ら世帯の総所得を家族の人数で割り出した「所得」に課税するため、子どもが多いほど税率は低くなる。

 今国会では、自民党の茂木敏充幹事長が1月25日の衆院代表質問で取り上げ「画期的な税制」と絶賛。日本維新の会の馬場伸幸代表も「導入すべきだ」と主張し、国民民主党の玉木雄一郎代表も採用検討を訴えた。立憲民主党の安住淳国対委員長も「検討に値する」と評価する。

高所得者に恩恵 片働き世帯が有利

 だが、政府は慎重だ。岸田文雄首相は1月31日の衆院予算委員会で、公平性の観点から複数の課題を列挙した。

 一つは、税額の軽減は高所得者ほど恩恵が大きく、納税額の少ない低所得者にはメリットが小さいこと。もう一つは、共働きより片働き世帯に有利に働く点。今の制度では世帯所得が同額の場合、片働きの方が納税額が多くなる可能性が高く、N分N乗方式では軽減幅が大きくなるからだ。

 推進側からは「片働き世帯が有利というが、一つの生計共同体が家族だという考え方に転換すべきだ」(国民民主・浅野哲衆院議員)との声も上がる。しかし、鈴木俊一財務相は今月3日の記者会見で「いろいろな課題がある」と重ねて慎重な姿勢を示した。

フランスは出産費用も教育費も無償

 識者は、日本に当てはめる難しさや、他の施策の必要性を指摘する。日本の所得税率は個人課税を前提に設計されており、ニッセイ基礎研究所の久我尚子氏は「子どもが多いほど所得税を軽減する考え方自体は参考にすべきだ」としつつ「今の税率のまま導入すると、さまざまなひずみが生まれる恐れもある」と話す。

 パリ在住で、子どもや福祉政策を研究する安發(あわ)明子さんは「N分N乗方式は『子育ては社会全体の重要なこと』と認識を共有する意味合いも感じる」と評価。その上で、フランスの出生率に関し「出産費用や教育費が無償で経済的負担が抑えられていること、誰でも利用できる保育、週35時間労働の徹底など環境の整備も大きい」と複層的な要因を挙げた。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年2月4日