子どもが多い世帯に減税「N分N乗」方式とは 出生率が高いフランスで導入も、日本では課題山積
N分N乗方式とは
世帯所得を家族の係数(大人は1、子ども2人目までは0.5、3人目以降は1として合計)である「N」で割り、家族係数1あたりの所得税額を算出する。この所得税額に再び「N」をかけ、世帯全体の所得税額を算出する。「N」は夫婦と子ども2人なら3、子ども3人なら4になる。
世帯所得を家族人数で割り出し課税
N分N乗方式はフランスが先の大戦後、戦争で減った人口を増やそうと導入した。日本の所得税が個人の所得に課税するのに対し、世帯単位なのが特徴。高所得者ほど税率が高くなる累進性は日本と同じだが、夫婦ら世帯の総所得を家族の人数で割り出した「所得」に課税するため、子どもが多いほど税率は低くなる。
今国会では、自民党の茂木敏充幹事長が1月25日の衆院代表質問で取り上げ「画期的な税制」と絶賛。日本維新の会の馬場伸幸代表も「導入すべきだ」と主張し、国民民主党の玉木雄一郎代表も採用検討を訴えた。立憲民主党の安住淳国対委員長も「検討に値する」と評価する。
高所得者に恩恵 片働き世帯が有利
だが、政府は慎重だ。岸田文雄首相は1月31日の衆院予算委員会で、公平性の観点から複数の課題を列挙した。
一つは、税額の軽減は高所得者ほど恩恵が大きく、納税額の少ない低所得者にはメリットが小さいこと。もう一つは、共働きより片働き世帯に有利に働く点。今の制度では世帯所得が同額の場合、片働きの方が納税額が多くなる可能性が高く、N分N乗方式では軽減幅が大きくなるからだ。
推進側からは「片働き世帯が有利というが、一つの生計共同体が家族だという考え方に転換すべきだ」(国民民主・浅野哲衆院議員)との声も上がる。しかし、鈴木俊一財務相は今月3日の記者会見で「いろいろな課題がある」と重ねて慎重な姿勢を示した。
フランスは出産費用も教育費も無償
識者は、日本に当てはめる難しさや、他の施策の必要性を指摘する。日本の所得税率は個人課税を前提に設計されており、ニッセイ基礎研究所の久我尚子氏は「子どもが多いほど所得税を軽減する考え方自体は参考にすべきだ」としつつ「今の税率のまま導入すると、さまざまなひずみが生まれる恐れもある」と話す。
パリ在住で、子どもや福祉政策を研究する安發(あわ)明子さんは「N分N乗方式は『子育ては社会全体の重要なこと』と認識を共有する意味合いも感じる」と評価。その上で、フランスの出生率に関し「出産費用や教育費が無償で経済的負担が抑えられていること、誰でも利用できる保育、週35時間労働の徹底など環境の整備も大きい」と複層的な要因を挙げた。