児童手当の所得制限、撤廃論の背景に不公平感「分断を生む」 他の子育て支援策はどんな制限が?
自民党も対応一変 少子化に危機感
政府が少子化対策の具体策を議論するため、1月に開いた関係府省会議の初会合。有識者らによる「全世代型社会保障構築会議」の座長を務める清家篤・日本赤十字社社長は「子育て世代を皆で支援しているというメッセージ性から、児童手当の所得制限を見直すことも考えられる」と発言した。構築会議の議論で、手当の有無が線引きされる所得制限は「子育て世代を分断している」との意見があったことも紹介した。
所得制限には「限られた財源で高所得者に配るより、厳しい状況の人を支援すべきだ」(西村康稔経済産業相)などの必要論はある。だが、少子化対策には社会全体の理解や後押しが不可欠というのが、清家氏が示した考え方だ。昨年の出生数が1899年の統計開始以来、初めて80万人を割り込む見通しとなったことへの危機感もにじむ。
「子どもを社会全体で育てる」理念
昨年10月、一定以上の所得がある世帯に支給される子ども1人あたり月額5000円の「特例給付」の制度が変わり、より所得が高い世帯は打ち切りとなった。するとネット上などで「整合性が取れない」「親の年収で子どもを差別しないで」といった反発が拡大。背景には、子どもが多いのに対象から外れたり、合計所得が高い共働き世帯が対象になったりする線引きへの不公平感がある。
出生率が高い欧州諸国では、全ての子に支給している例が目立つ。少子化対策の費用対効果を研究する京都大の柴田悠准教授(社会学)は「高所得世帯への支給に出生率の引き上げ効果はない」と分析。同時に「一部に全く支給しないと反発を招き、子どもを社会全体で育てるとの理念からもずれる」と指摘し、金額に差をつけても全ての子への支給が望ましいと語る。
保育料、高校の授業料、奨学金… 所得制限の条件と対象はバラバラ
0~2歳児は「年収約270万円以下」
政府は消費税率8%から10%への引き上げに合わせ、増収分を財源に幼児教育・保育の無償化を実施。3~5歳児は所得制限がなく、保育園や幼稚園の費用の助成を受けられる。だが、0~2歳児は、保育料が免除されるのは年収約270万円未満の住民税非課税世帯だけで、それ以外は年収に応じて月額約2万~約10万円かかる。
高校の場合、授業料が高い私立は最大で年約40万円の給付を受けられるが、世帯年収が590万円を上回ると年約12万円に減額され、910万円超で対象外。年約12万円で授業料をおおむね賄えるとされる公立も、世帯収入910万円超で不支給になる。
返済不要の奨学金は「年収380万円」
大学生や専門学校生向けの返済不要の給付型奨学金は、上限額が支給されるのは住民税非課税の世帯。年収に応じて給付が減額され、380万円を超えると対象外になる。障がい児が使う車いすなど補装具費が満額支給になるのも住民税非課税世帯だけだ。
所得制限撤廃を求める親たちでつくる「子育て支援拡充を目指す会」は3日にオンライン会見し、工藤健一代表(35)が「児童手当の議論はスタート地点に過ぎない。所得制限が分断を引き起こしている」と訴えた。グループを支援する矢田稚子前参院議員は取材に「子どもの育ちや学びを保障するための給付は一律であるべきだ」と指摘した。
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