児童手当の拡充で出生率は上がるか 専門家にも賛否「増額は王道」「女性の負担を減らす施策を」
日本の「現金給付」大幅に少ない
子ども・子育て政策の充実に向け、7日に開かれた政府の関係府省会議で、児童手当を巡り、識者2人が異なる意見を表明した。
中京大の松田茂樹教授(家族社会学)は「出生率回復のために現金給付の一層の拡充は必要。王道は児童手当の増額」と主張した。日本は保育サービスなど「現物給付」の予算は国内総生産(GDP)比で、出生率が高い欧州主要国並みに増えてきたが「現金給付」は大幅に少ないと指摘。バランスの悪さが課題との考えだ。
一方、東京大の山口慎太郎教授(労働経済学)は他の先進国の研究を基に、現金給付は「出生率を上げるが、それほど強い効果はない」と指摘。保育サービス充実などの現物給付や男性の育休取得促進といった女性の負担を減らす対策に重点を置くべきだと訴えた。
どの施策も必要という立場は同じだが、期待する効果に違いが表れた。
費用対効果が高くない、との分析
他の施策に比べ、児童手当の費用対効果は高くないという分析はある。
京都大の柴田悠(はるか)准教授(社会学)の試算では、根拠となるデータが乏しいとの前提はあるが、現在は中学生まで月額最大1万5000円の児童手当を所得に応じ、5000~1万円増額すると出生率は0.1程度上昇する。国と地方を合わせ、追加で必要となる予算は年間1兆5000億円という。
同程度の上昇を、不足する1~2歳児の保育の受け皿整備で実現しようとすると、予算は年間4000億円。保育の充実により、女性らが安心して仕事のキャリアを継続できる効果が出生率を押し上げるという。
分断を生む所得制限はやめるべき
ただ、民間のアンケートなどでは、児童手当の拡充を求める声は大きい。国立社会保障・人口問題研究所の2021年の調査でも、夫婦が理想の数の子どもを持たない理由の1位は「子育てや教育にお金がかかり過ぎるから」で52.6%だった。
児童手当の拡充は、財源があれば短期的に実行できる利点もある。このため、柴田氏は、出生率上昇の効果が出やすい低所得者向けを中心に増額した上で、子育て世代の対立や分断を生まないように所得制限もなくすべきだと提案する。
若者の低賃金や長時間労働を是正し、結婚や出産をしやすい社会づくりを進めるなど根本的な課題に対処しなければ、少子化に歯止めをかけられるかは見通せない。政府や与野党の議論は児童手当に偏重気味だが、まだ入り口の段階だ。
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