児童手当の拡充で出生率は上がるか 専門家にも賛否「増額は王道」「女性の負担を減らす施策を」

井上峻輔 (2023年2月12日付 東京新聞朝刊)

写真 赤ちゃん

 岸田文雄首相が「異次元の少子化対策」の柱の1つに掲げる「児童手当の拡充」。与野党には所得制限の撤廃や多子世帯への加算、支給対象年齢の引き上げなどの具体案が飛び交うが、実際にどこまで出生率を押し上げる効果があるのか、専門家の間でも見解が分かれている。対策の裏付けとなる財源をにらみながら、幼児・保育サービスの拡充、働き方改革をどう組み合わせるかも議論の焦点になる。

日本の「現金給付」大幅に少ない

 子ども・子育て政策の充実に向け、7日に開かれた政府の関係府省会議で、児童手当を巡り、識者2人が異なる意見を表明した。

 中京大の松田茂樹教授(家族社会学)は「出生率回復のために現金給付の一層の拡充は必要。王道は児童手当の増額」と主張した。日本は保育サービスなど「現物給付」の予算は国内総生産(GDP)比で、出生率が高い欧州主要国並みに増えてきたが「現金給付」は大幅に少ないと指摘。バランスの悪さが課題との考えだ。

 一方、東京大の山口慎太郎教授(労働経済学)は他の先進国の研究を基に、現金給付は「出生率を上げるが、それほど強い効果はない」と指摘。保育サービス充実などの現物給付や男性の育休取得促進といった女性の負担を減らす対策に重点を置くべきだと訴えた。

図解 児童手当拡充には多額の財源が必要だが… 専門家の見解は?

 どの施策も必要という立場は同じだが、期待する効果に違いが表れた。

費用対効果が高くない、との分析

 他の施策に比べ、児童手当の費用対効果は高くないという分析はある。

 京都大の柴田悠(はるか)准教授(社会学)の試算では、根拠となるデータが乏しいとの前提はあるが、現在は中学生まで月額最大1万5000円の児童手当を所得に応じ、5000~1万円増額すると出生率は0.1程度上昇する。国と地方を合わせ、追加で必要となる予算は年間1兆5000億円という。

 同程度の上昇を、不足する1~2歳児の保育の受け皿整備で実現しようとすると、予算は年間4000億円。保育の充実により、女性らが安心して仕事のキャリアを継続できる効果が出生率を押し上げるという。

分断を生む所得制限はやめるべき

 ただ、民間のアンケートなどでは、児童手当の拡充を求める声は大きい。国立社会保障・人口問題研究所の2021年の調査でも、夫婦が理想の数の子どもを持たない理由の1位は「子育てや教育にお金がかかり過ぎるから」で52.6%だった。

 児童手当の拡充は、財源があれば短期的に実行できる利点もある。このため、柴田氏は、出生率上昇の効果が出やすい低所得者向けを中心に増額した上で、子育て世代の対立や分断を生まないように所得制限もなくすべきだと提案する。

 若者の低賃金や長時間労働を是正し、結婚や出産をしやすい社会づくりを進めるなど根本的な課題に対処しなければ、少子化に歯止めをかけられるかは見通せない。政府や与野党の議論は児童手当に偏重気味だが、まだ入り口の段階だ。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年2月12日

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  • ちゃみ says:

    我が家は現在高1、中2、小2の3人子供がいます。

    子供が育つにつれて、年々出費は増えてます。末っ子が小学校入学したタイミングで私の仕事も旦那の扶養内を超えて現在働いてますが、物価もあがり本当にギリギリの生活です。

    扶養を超えて働いても、時間と労力ばかりがかかり、所得税は増すばかりで手取りで、以前より3万円増えたぐらいです。長女が中学卒業してからは医療費も無料ではなくなってしまい、、本当に大変です。子供が成長しても医療費や児童手当などなくなるものばかりです。

    高校無償化といいますが、、やはり完全なる無償化ではありません。授業料が無償化になっていて、ありがたいですが、高校生は教科書も無償ではなくなり、コロナの影響で今年度からは、パソコンを1人1台購入しないといけませんでした。
    部活でも沢山お金はかかります。

    修学旅行費も積み立て金が毎月1万円ぐらい引かれています。だからと言って、修学旅行に行かない子なんていないので、なんとか毎月捻出しています。

    我が家は本当に貯金もないので、、今後の長女の高校卒業してからの子供達の学費は間違いなく払えません。とにかく、、不安で、、夜も考えすぎて、目が覚めてしまいます。。

    何も贅沢はしてないです。世帯年収を増やし、余裕がもてる生活をしたいのに、、どうしたらよいのか本当に悩んでます。

    ちゃみ 女性 30代
  • マイユナ says:

    私には23、21、12、8歳の子供がいますが、19歳過ぎると、第一子から外れると言うのが、納得できません。

    まだまだ下の子にはこれからお金がかかるのに、年が離れているからと第3子、第4子にならないのはおかしくないですか??

    マイユナ 女性 40代
  • セブン says:

    高校 、大学の学費が 格安(または、無料)になれば 親は子供を産むようになる。 日本は学費にお金がかかりすぎ。

    セブン 女性 40代
  • 匿名 says:

    ごもっともだと思う、目の前のお金は子供増えるには繋がらない。入ったお金は見通しの無い社会に使わない。返って貯蓄するでしょう。
    自民党が支持得るための目前お金ばらまきだ。政治家であれば本当に安心して子供産める社会にして欲しい。

  • 匿名 says:

    補助金が幾ら貰えるとか何らか優遇されるとか、そんな国頼み他人頼みの方法は根本ではない。
    世にある案は全て対症療法その場しのぎでしかない事を最初に認識しないと。
    勿論その場しのぎも大切なんだが、平行して根本的な解決へ向かう道を作って行かないと何にもならない。
    それは今日より明日は素晴らしいと思える世の中、今年よりも来年は給料上がる、頑張れば頑張った分良くなって行く、正当な評価をされる、前向き上向きに感じられる世の中であること。
    今一時的に収入が増えたとしても将来の不安があれば誰も使わない、用心して生きる。
    上向きに感じられるから今は貧しくても結婚して子供を持とうとする。
    大したこともしてない奴らが一枚噛んで何処かでピンハネ、貰えるはずの利益が末端まで回って来ない社会の仕組みを変える以外に希望ある前向きな社会は実現しない。
    そんな社会があってこその結婚子育てですよ。

     男性
  • 匿名 says:

    児童手当てに制限をなくすなら、特別児童扶養手当ても制限やめて頂きたい。この手当てにも所得制限の意味がわかりません。
    少し制限を出ただけですぐ支給停止され、これならボーナス少し上がっても全く喜べない。子供に残してあげたいのに

  • そき says:

    結婚した人だけじゃ無くて、ジェンダーの人たちでも、育てやすい政策が必要。ひとり親でも、結婚はしたくなくても子供が欲しいシングルマザーやシングルファザーはいっぱいいます。女性カップル男性カップルでも、母性がある人はたくさんいるし、人間として子孫は残したいという意識は若い子も多いです。ただ日本は子供を数産むと損ばかり。子供手当も3人目なんて、何千円。なんで?増えれば増える分お金がかかるのに、貰うのは少なくてあまりにも不公平で足りない!シングルマザーやシングルファザーにも、安心材料を提示して欲しいです。子供手当の増額。教育費無料化。

    そき 女性 30代
  • 2児の母 says:

    児童手当が増額されたからといって、出生率は上がらない。児童手当をもらっただけでは将来的な不安は解消されない。将来的な不安とは、子供の進学費、自分自身の仕事のキャリア、社会的な地位、子供の学費が賄えてもその後の自分自身の老後資金。
    第3子以降を産もうと思える政策とは。例えば、減税、年金額が増える、高校.大学などの進学費の補助、習い事の補助、保育園以外の預け先の拡充(病児、シッターなど)。

    東京都の五千円給付、出産一時金の増額、手当の増額…政府もドヤ顔で言っているけど、全然響かない。
    本気で子供を増やそうと思っているのか。若者が「子供いたほうが得じゃん!」「子供いないほうが損じゃね?」と思える、思い切った制作を打ち出さなきゃ絶対子供は増えない。

    2児の母 女性 30代

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