2022年の出生数が初の80万人割れ 想定より10年早い少子化ペース 回復には教育費の負担軽減を
7年連続で過去最少 6年で2割減
出生数は7年連続で過去最少を更新。16年に初めて100万人割れとなったが、それから6年で2割程度落ち込んだ。国立社会保障・人口問題研究所(社人研)は2017年に示した将来推計で、日本人の出生数が77万人台になるのは2033年としていた。
婚姻数は3年ぶりに前年を上回ったが、新型コロナウイルス禍で2020~2021年は急減しており、今回の出生数減に影響した可能性がある。厚労省の担当者は「個々人の結婚や出産、子育ての希望実現を阻む要因が複雑に絡み合っているのではないか」と指摘した。
第2次ベビーブーム世代の後は…
急速な少子化の進展を受け、岸田文雄首相は「社会機能を維持できるかどうかの瀬戸際」と強調し、「異次元」と銘打った子ども・子育て政策の拡充を検討。政府は3月末をめどに具体策のたたき台をまとめ、6月にも策定する経済財政運営の指針「骨太方針」で将来的な関連予算の倍増に向けた道筋を示す方向だ。
ただ、既に1971~1974年生まれの第2次ベビーブーム世代が出産可能な年齢層を抜けた一方、新たに出産期を迎える女性人口は少ない。そのため、出生数を増やすのは難しく、減少速度をどれだけ緩やかにできるかが焦点だ。
専門家の見解は? 賃上げと教育費がカギ
2016年以降「結婚しても産まない」
出生数の下落率は、2015年までの10年間は毎年平均1%ほどだったが、2016年以降は3%超に加速。同年に出生数が100万人を割ってから、わずか6年で2割減の80万人を下回り、底が抜けたようになっている。
最近の出生数低下はコロナ禍による婚姻数減少の影響もあるとされるが、それ以前に加速は始まった。人口問題に詳しい日本総研の藤波匠氏は「2015年までは非婚化が進む一方で、結婚した人は子を産むことが多かった。2016年以降は結婚した人も子を産まなくなってきている」と分析する。
大学無償化など高等教育の負担軽減を
藤波氏によると、2020年の既婚女性の出生率を表す「有配偶出生率」は2015年と比べ、35~39歳は横ばいだったが、34歳以下の世代は軒並み低下。特に20~29歳は顕著だった。
浮かび上がるのは、今の生活や将来に不安を感じ、子どもを持つことをためらう若い夫婦が増えている実態。藤波氏は「女性は賃金の低い非正規雇用が多く、男性も賃金が下がっている。女性は働くことも家事や子育ても求められてきたが、頑張りも限界を超え『子どもを育てながら生活するのは自分には無理』『3人ほしかったけど1人だよね』と悲観的になっている」と指摘する。
根本的な打開策は経済成長と賃金上昇としつつ、大学無償化や返済の必要がない奨学金の拡充など、高等教育の負担軽減の重要性に言及。「賃金が上がらない中で、子ども3人を大学に行かせるのは不可能という感じになっている。こんな社会をつくったのは政治の貧困だ」と強調する。
「異次元」…30年前から進歩がない
元厚生官僚の大泉博子氏も教育費の負担軽減を求める。1989年に合計特殊出生率が過去最低になり「1.57ショック」と呼ばれた事態を受け、政府が1994年に初の少子化対策としてまとめたのが「エンゼルプラン」。大泉氏は課長として作成に携わり「ほとんどが保育について書かれていて、人口政策ではなく児童政策に矮小化された」と問題があったと振り返る。
岸田文雄首相が「異次元の少子化対策」で掲げた保育サービス拡充などの3本柱は、30年前のプランと同じ発想だと批判。「全く進歩していない。(政府などの)調査では、教育費がかかるから産めない、1人にとどめるとの答えが最も多い。教育費ゼロの方が効果が大きい」と主張する。
専門家や与野党の議員は、出産期を迎える女性が減っていくため「今後10年が少子化にブレーキをかけるラストチャンス」と口をそろえる。首相は28日、80万人割れを踏まえて官邸で記者団に「危機的な状況だ。今の時代に求められる子ども・子育て政策を具体化し、進めていく」と強調したが、政府が3月末をめどにまとめる対策のたたき台が試金石になる。
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