岸田首相「少子化トレンドの反転」目標値も金額の根拠も示さず 出生率・婚姻数、保育士の処遇改善…効果検証できない恐れ
会見で質問されても答えずに
首相は13日夜、こども未来戦略方針の決定を受けた記者会見で、少子化対策の数値目標を問われたが、直接答えずに「少子化のトレンドを反転させるために政策を用意している」と主張した。
今月発表された2022年の合計特殊出生率は、2005年と並ぶ過去最低の1.26。首相は、どうなれば「反転」と評価できるのかは語らず、こども未来戦略方針でも出生率や出生数、婚姻数などの見通しや目標を示さなかった。
児童手当の増額 なぜ3万円
列挙した施策の費用対効果に関する説明も乏しい。
児童手当の拡充には年1兆2000億円を投じる見込みだが、第3子以降は高校生年代まで「月3万円」に増額した根拠は不明。「第3子以降に最大6万円」と提言した自民党からも「3万円も6万円も根拠はない」との声が漏れる。長年の課題となっている長時間労働の是正や、保育士の処遇改善も盛り込んだものの、目標値を掲げていない。
首相が議長を務め、有識者らが少子化対策を議論したこども未来戦略会議では「少子化トレンドの反転という以上には、政策の目標が明確にされていない。議論の土台としてKPI(重要業績評価指標)を明確化し、効果の高い政策にメリハリをもって財源投入することが不可欠ではないか」(新浪剛史経済同友会代表幹事)などの意見が出た。KPIは、企業などが目標として定める指標のことで、達成状況の把握につながるが、こども未来戦略方針には反映されなかった。
避ける背景 過去の”空振り”
政府が目標設定を避ける背景には、過去に掲げた目標がことごとく空振りに終わっていることがある。
安倍政権下では2015年の経済財政運営の指針「骨太方針」で、抜本的に少子化対策を進めることで「50年後も1億人程度の規模」を維持すると明記。だが、むしろ少子化は加速し「1億人維持」は2017年の骨太を最後に消えた。
評価方法まで盛り込むべき
同じく2015年に打ち出したのは、子どもがほしい人の希望がかなえば出生数は増えるという「希望出生率1.8」。実際の出生率をできるだけ近づけようという目標だが、最新のデータでは、希望そのものが1.6に低下しているとの専門家の分析もある。
東京大大学院の山口慎太郎教授(労働経済学)は、政府は過去30年、打ち出した対策のデータ蓄積やそれに基づいた効果検証を十分にしてこなかったと指摘。「過去の経験に学べる体制が乏しく、今のままでは100年たっても何も学んでいないということになりかねない。大きな支出を伴う政策は効果の評価方法まで計画や予算に盛り込み、随時見直せるようにするべきだ」と強調する。