口唇口蓋裂の医療費支援、18歳で打ち切らないで「せめて2年延長を」 20歳前後まで手術が必要

山口哲人 (2023年8月29日付 東京新聞朝刊)

口唇裂の乳児=昭和大藤が丘病院形成外科・大久保文雄特任教授提供

 生まれつき上唇(くちびる)や上顎(あご)が裂けている「口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)」の患者やその家族が、治療にかかる費用の負担に苦しんでいる。多くの患者が20歳前後まで手術を必要とするにもかかわらず、制度の問題で18歳以降の医療費支援が打ち切られてしまう事例が大半のためだ。当事者らは、成人してからも適切な治療を続けやすくなるよう支援制度の改善を訴える。

口唇口蓋裂とは

 約500人に1人の割合で生まれるとされる先天性の疾患。上唇が裂ける口唇裂と、口の中の上部に穴があり鼻までつながっている口蓋裂を併発することが多い。生後数カ月で上唇を閉じる手術を、2歳前後で口の中の穴を閉じる手術を行うのが一般的。その後も形成手術や歯科矯正などを繰り返す必要がある。

患者と家族の「口友会」 国会で訴え

 「娘がこれから成長していく中で(顔に)どうゆがみが出るか分からないが、本人は大変な思いをしながら頑張っている。何とかもう一歩、お力添えを」

 患者や家族らでつくる「口唇・口蓋裂友の会(口友会(こうゆうかい))」の一員で、長女(7つ)が治療を経験した浅田麻友さん(46)=東京都世田谷区=は今夏、国会で厚生労働省の担当職員や国会議員を前に、涙ながらに支援の拡充を求めた。

 長女は生後4カ月、1歳、5歳と既に3回の手術を乗り切ったが、成長過程で顔にゆがみが生じれば今後も手術が待ち受ける。治療費は公的医療保険で7割がカバーされ、残り3割についても、17歳までは自治体の子ども医療費や自立支援医療費の支給により自己負担額が軽減される。

 しかし、18歳からは関連法の規定で自立支援医療費の支給対象外に。子ども医療費の支給も終わるため、一般的な医療費と同じく3割の自己負担が生じるようになる。

 18歳以降も医療費負担を抑えるには身体障害者手帳を取らなければならないが、取得に必要な意見書や診断書を作成できる専門医を探すのは難しい。約500人の会員がいる口友会の2019年の調査では、手帳を取得できた会員は6.8%にとどまった。

「24歳まで治療が続くこともある」

 治療実績が豊富な昭和大歯科病院の槙宏太郎院長によると、この疾患は上顎が十分に発達せず、下顎が前に出る「受け口」になりやすい。患者は外見に悩むだけではなく、かみ合わせの悪さも日常生活に困難をもたらす。体で最後まで発達するのが下顎で、個人差はあるが成長が止まるのは18歳ごろ。それを見極めて下顎の骨を切除し引っ込める手術と術後矯正を行う。

 口友会は「18歳は進学や就職と重なって治療に専念しにくい時期だ」として、18歳未満が受けられる医療費負担軽減の枠組みを「せめて2年だけでも延長してほしい」と切望。槙院長も「18歳で全ての治療を終えるのはまず無理で、24歳くらいまで治療が続くこともある。数年でも適用年齢を延ばしてくれると、患者さんと家族はとても助かる」と訴える。

生まれてきた赤ちゃんは口唇裂だった―。典型的な仕事人間だった政治部記者が育児休業を取得。その奮闘をつづった2018年の連載です。全5回で、当事者の方やご家族からもたくさんのコメントが寄せられました。

(1)決意「お父ちゃん、今度こそ頑張る」

(2)好奇の目?勝手に感じ、おびえていた

(3)妻が「鬼」になったのは、私のせいだ

(4)待ち受ける手術 意外な「私もそうでした」

(5)得られたもの

(反響編)「涙を流しながら読んだ」「頑張ろうと思った」

自公で議連設立 法改正を検討 

 障害者総合支援法は、市町村に対し「障害者」と「障害児」に自立支援医療費を支給する責務を課す。一方、別の法律は、身体障害者を「18歳以上で身体障害者手帳の交付を受けた者」、障害児を「身体に障害のある児童」と定義。口唇口蓋裂の患者は18歳に達すると障害児の定義から外れる上、言語やそしゃく機能の著しい障害があるとして手帳を取得しなければ、身体障害者の定義にも含まれない。

 自民、公明両党の有志議員は6月、議員連盟を設立し、18歳以降も一定の年齢に達するまでは治療費の負担軽減を受けられるようにするため、関連法改正の検討を始めた。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年8月29日