産後パパ育休で人生が変わった 一番大変な時期を一緒に乗り越え、深まる夫婦の絆 制度創設1年の効果と課題は

河野紀子、五十住和樹 (2023年10月11日付 東京新聞朝刊)

産後パパ育休を取り、生後間もない長男にミルクを与える伊東大地さん=名古屋市内で(本人提供)

 妻の産休中に、夫も休みが取れる「産後パパ育休(男性版産休)」が始まって1年が経過した。育休を取る男性は増えており、その妻を含めた当事者からは「夫婦の絆が深まった」「人生を変える期間だった」などと、その選択を前向きにとらえる声が数多い。ただ、取得率は国が掲げる目標にはほど遠く、休みやすい職場環境づくりや家計への影響など取り組むべき課題は多い。

産後パパ育休

 2022年10月に始まった。子の出生後8週間以内に計4週までを2回に分けて取得できる。また、子が1歳になるまで取得できる通常の育休も、分割して2回取ることが可能になり、柔軟に利用できるようになった。

妻と一緒に里帰り 家事育児を分担

 ミルク、おむつ換え、寝かしつけ、子どもが寝ている間に洗濯と掃除、食事の準備…。岐阜県飛騨市の会社員、伊東大地さん(28)の育児日記アプリには、朝7時から夜11時まで、育児と家事の記録がびっしりと書き込まれている。

 産後パパ育休が始まったとき、妻は第1子の長男を妊娠中。昨年12月下旬に出生後、すぐに4週間の休みに入った。生まれたばかりの長男は、3時間おきに与えるミルクに加え、昼夜問わず起きては泣くを繰り返し、最初は夫婦ともに睡眠不足に。夜間は妻に任せ、伊東さんは日中の家事と育児を担当することにした。

 何をしても泣きやまず、抱っこしながら途方に暮れたことも。「初めての育児で分からないことばかり。とにかくやることが多くて、4週間はあっという間だった」

体力も精神面もつらい妻をサポート

 もともと、子どもが生まれたら育休を取るつもりだった。勤め先は2019年創業の従業員30人ほどの企業で、男性の育休取得は初めて。だが、周囲の理解があり仕事の引き継ぎもスムーズに進んだ。

 出産までに育児の本を買って読んだり、両親教室に参加して沐浴(もくよく)の方法を学んだりと準備。妊婦健診に付き添い胎児のエコー写真を見ると、もうすぐ父親になることを実感してはいた。

 ただ、育休中に何をすればいいのか、イメージできなかった。知人の女性から出産直後は体力が落ち、ホルモンバランスが崩れて精神的にもつらいことを聞き、「全力で妻をサポートしよう」と決意。名古屋市の妻の実家に一緒に里帰りして離れで生活しながら、義母が用意してくれる昼食以外は夫婦でやりくりした。

 それまで、共働きながら洗濯や料理といった多くの家事は妻がやってくれた。育休中はスマートフォンのアプリでレシピを調べ、栄養バランスや母乳に良い食事作りを心がけた。

仕事復帰後また育休 楽しむ余裕も

 繁忙期のため一度仕事に戻り、3月に2回目の育休を取った。飛騨市の自宅に戻り、首が据わって笑顔が増えた長男と一緒におもちゃで遊んだり、体調が戻った妻と3人で散歩に出かけたり。「ようやく育児を楽しむ余裕が出てきた。産後の一番大変な時期を一緒に乗り越えて、夫婦の絆が深まった」と話した。

 時間に追われる育児を経験したことで、仕事も時間を決めてやるように。その分、夕方は早めに帰るなど、めりはりのある働き方になったと感じている。

 減収分を補うため、貯金を少し取り崩しはした。それでも、「産後の妻を支えるだけでなく、息子の成長を間近で見ることもできた。もし2人目に恵まれたら、次はもっと長く育休を取りたい」と笑顔を見せる。

企業側の環境整備の進展に期待

 男性育休の推進に取り組む企業「育Qドットコム」(東京)代表の広中秀俊さん(45)は、育児・介護休業法の改正により、産後パパ育休の創設や育休の分割取得など、男性が育休を取りやすくなっていると評価する。

 その上で「若い世代は共働きが当たり前で育休を取りたい男性が多いので、取得率は上がっていくだろう。今後は希望すれば長期の休みが取れるように、代替要員の確保など企業は取り組みを進めてほしい」と話した。

学生の当事者夫婦インタビューでわかったこと 男性の意識改革につながるが、上司の後押しが必要です

 「夫婦双方がキャリアを積むための『必要経費』」「育児の時間と楽しさを感じる時間は比例する」-。育休を取った男性のこんな思いが、実践女子大(東京都)の学生による当事者夫婦へのインタビューをまとめた報告書で浮き彫りになった。学生たちは「経験は男性の意識改革につながる。制度だけでなく上司の後押しがほしい」と指摘する。

「休んでも会社が回る」という自信に

 インタビューは、男性の育休が家庭内のジェンダー平等や女性のキャリアに与える影響を考えるため、人間社会学科の現4年生9人が、昨年11月~今年1月に実施。育休を取った男性とその妻計10人に、育休時の状況や取得前後で変わったこと、会社や社会への要望などを聞いた。

 3人目の出生時に初めて育休を取った男性。妻は「夫は長期間休むことに恐怖心があったと思う。1カ月の育休を通して、休んでも会社が回るという自信ができたのでは」と振り返る。すると、それまで一度も有休を取らなかった夫が、月に1度は取得するように。職場も必要に応じて休める環境に変化したという。

「友達」から「育児の相棒」になった

 2人の子の出生時にそれぞれ4カ月、5カ月の育休を取った男性は「妊娠何日目はどのような発達の状態かという本を妻と一緒に読んだ」と、知識を身に付けて臨んだ。「飲ませる時の哺乳瓶には適切な角度がある」と研究し、妻は「ミルクを飲ませるのは夫の方が上手」と安心して任せることができた。「取得前は友達に近い関係だったが、取得後は育児をする相棒」と妻は感じている。

 「家族あっての自分。親の責任として男性も育休を取得するべきだ」。第5子で初めて6カ月の育休を取った男性は「仕事をせず家族と向き合う時間をつくることは人生で絶対必要」と話す。男性は自動車販売の最前線で働く。4人目までは妻の両親が手助けし、「育児は100%妻」。夫の育休で、看護師の妻は「不公平感がなくなり、けんかが減った。昼間に大人の話し相手がいて、赤ちゃんの成長を一緒に喜べたのはよかった」と言う。

 夫婦それぞれが仕事を続け、昇進などを考えていくためには、取得は不可欠だとする声もあった。

期間は?「人生を変える1カ月」の声も

 協力した夫婦が勧める育休期間は「最低でも産褥期(出産後、母体が元の状態に戻るまでの期間)が終わる8週間。できれば保育園に入るまで」「2週間でも育児スキルは上がる」など。「人生を変える1カ月。1カ月取れれば対等の相談相手になる」と話す妻もいた。

 調査を担当した宮崎晴香さん(22)は「どれだけ取れるかで男性の育児への向き合い方は変わる。会社は経験者に聞く会を開くなど支援して」と話している。

「25年度までに50%」政府目標は遠く

 厚生労働省によると、2022年度の男性の育休取得率は17.13%だった。年々上昇し過去最高となったが、「2025年度までに50%」とする政府の目標にはほど遠い。特に小売業や宿泊業・サービス業で低かった。

 2022年度の厚労省委託調査では、男性が育休を取らなかった理由(複数回答)は

  1. 収入を減らしたくない=39.9%
  2. 取りづらい職場の雰囲気・会社や上司の理解不足=22.5%
  3. 自分にしかできない仕事・担当する仕事がある=22.0%

などだった。

 今年4月から従業員1000人超の大企業に公表が義務付けられた男性の育休取得率は46.2%で、平均取得日数は46.5日だった。中小企業の取得促進などが課題になっている。