夜泣きに悩み、頼ったのは漢方でした 0歳から服用OK 全国的に珍しい「小児漢方内科」とは?
毎晩5回の夜泣きが1カ月で…
1歳7カ月の男児の夜泣きに悩み、受診したのは20代の母親。産後から毎晩5回の夜泣きがあり、睡眠不足が続いた。本人も月経前症候群や胃の調子が悪化。子どもに対してイライラする悪循環となっていた。
男児には、かんしゃくなどを抑える「抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)」「甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)」の2種類を処方。母親には胃の調子を整える「人参湯(にんじんとう)」とイライラを抑える「加味逍遥散(かみしょうようさん)」を出した。約1カ月で夜泣きがなくなり、母親の体調も回復した。
親子で一緒に飲む「母子同服」
小児漢方内科の鈴村水鳥(みどり)医師(41)は「漢方薬は0歳から飲める。すぐに効果が出る場合ばかりではないが、困り事に対してできることがあるのが強み」と話す。2021年に小児漢方内科を開設後は、全国から患者が訪れるように。悩む母親らがインターネットで病院を見つけて受診する例も多い。
親子で一緒に薬を飲む「母子同服」は、漢方独特の服薬法。子の病気は家族の健康状態にも左右されるという考え方だ。鈴村医師は「親が心身を整えることで子の精神も安定する。家族を一つのチームとして診ることが大事」と話す。
総合病院では全国に3カ所だけ
小児専門の漢方内科があるのは、総合病院では他に九州大病院(福岡市東区)と東邦大医療センター大森病院(東京都大田区)の2カ所だけ。医学部で漢方を学ぶ時間は少なく、小児科専門医かつ漢方専門医が全国で39人と少ないためだ。
鈴村医師が東洋医学に力を入れるのは、学生時代に免疫疾患の難病を患った経験から。副作用のある薬を飲み続け、医師になる夢も諦めかけた際、救われたのが漢方薬だった。「西洋医学、東洋医学それぞれに良さがある。漢方の知識をより多くの医師に知ってもらい、互いの良さを生かした治療が広まるといい」と願っている。
西洋医学と東洋医学の違いは?
漢方は、6世紀ごろ中国から伝わった医学が日本で独自に発達したもの。西洋医学は主に臓器別に原因を分析して病気をピンポイントに治療するが、漢方などの東洋医学は心と体を一つのものとしてとらえる。脈や顔色、舌の状態、呼吸音のほか体質や生活の様子を細かく聞き取り、総合的に診断する。同じ症状でも一人一人違う薬の処方になる。
九州大病院は2015年に小児漢方外来を開設。小児外科と漢方の専門医である同大の宮田潤子医師(49)は、「漢方薬はゆるやかに効果が出るため副作用が少なく、子どもにも処方しやすい。オーダーメイドで一人一人に合った治療ができる」とメリットを語る。
九州大では子どもを対象に、術後の排便障害の治療のほか、がんや臓器移植など長期にわたる治療において西洋薬と併用する。アトピー性皮膚炎や気管支炎、精神疾患などでの受診もある。
睡眠障害に関して宮田医師は「鎮静作用が含まれた漢方薬はストレスや不安を緩和するため、夜泣きには大変効果がある」と語る。発達障害などに伴う睡眠障害やこだわり、不安、焦りなどにも効果が高いという。
医師が漢方を学ぶ機会が増加
文部科学省が制定する医学教育のカリキュラムには、2001年に漢方医学が盛り込まれた。以降は医師が漢方を学ぶ機会が増え、エビデンスの研究が盛んになった。大手漢方薬メーカーのツムラによると、現在では医師の8割ほどが漢方薬の処方経験がある。宮田医師は「漢方の有効性が証明されるようになり、処方を希望する医師や患者が増えている」とニーズの高まりを感じている。
薬局で手軽に購入できる漢方薬だが、注意も必要だ。規定量を超えた服用や、複数の種類の同時摂取は副作用を起こしやすい。また、トリカブトから作られた「附子(ぶし)」の成分が含まれたものは、体を温める作用が強いため、子どもの服用には適していない。宮田医師は「必ず薬剤師に相談の上、決められた量と回数を守って服用してほしい」と呼びかけている。