〈坂本美雨さんの子育て日記〉20・おくるま、がんばってます!

(2018年4月27日付 東京新聞朝刊)

3回目の春を満喫した娘

17年ぶりの運転 

 およそ17年ぶりに、車のハンドルを握っている。若い頃、ニューヨークで5年ほど運転していた。16歳で免許を取り、車で高校に通っていた。今、教習所で10代の学生さんたちに交ざっていると、日々使っている脳みそがまったく違うことを痛感する。

 椅子に座って集中して先生の話を聞き、ノートを取り、重要な点を整理して頭に入れ、暗記する。そういった学習のための脳みそを呼び起こすには、ずいぶんと時間がかかった。そして仕事と子育てをしながら通うというのは始まってみたら、なかなか思い通りにいかず…というのは言い訳。もともとのサボり癖のせいで、気がついてみれば教習所の卒業期限があと2カ月半なのに仮免も取れてない、という状況。いよいよ焦り、しっかりスケジュールを組んでもらって、今なんとか路上を走っているところ。

 朝一の教習を、娘は「おくるま、がんばってね~」と送り出してくれる。運転の感覚は徐々に戻ってきて、左側通行にも慣れ、次の回を書くころには無事に免許取得できている…はず。

家族を乗せて

 こんなにブランクを空けて運転してみると、若い頃どれほど恐ろしい運転をしていたか考えてゾッとしてしまう。周りの音が聞こえないくらい爆音で音楽を流し、コーヒー片手にハイウエーを突っ走り、鋭利に割り込んでくるイエローキャブと競い合うようなジェットコースターライド。完全に調子に乗っていた。友人と数日間あてもなく走る旅(あー、恥ずかしい響き!)に出たこともある。よく親は許してくれたもんだ。

 娘がいる今、改めて運転と向き合うと、つい最悪のケースを思い描いてしまう。命を奪われることも奪うことも、私たちのすぐ隣にあること。

 それでもなお、免許を取り直すことを決めたのは、どうしても娘と旅がしたいから。思いつきで海に行ったり、高校の時に親友と行き先を決めずに車で走ったりしたみたいに、彼女の行きたい方向へ当てずっぽうに旅がしたい。

 そして大好きなアイスランドの大自然を一緒に見たい。頭で理解しきれないくらいの圧倒的な自然の前で、立ち尽くしたい。家族を乗せて、まだまだ新しい世界を見に行こうと思う。 (ミュージシャン)