〈坂本美雨さんの子育て日記〉54・「忙しい」と言わせてしまうなんて

(2021年10月22日付 東京新聞朝刊)

夏が終わり、気づけばぐっと背が伸びていた

朝ドラ「モネ」に親子で夢中

 「モネはじまるよ!」の一言で、ざばんっと布団が波打って跳び起きる娘。どんなに眠くても、寒くても。NHK連続テレビ小説「おかえりモネ」の威力はすごい。朝8時になると親子でテレビの前に正座する勢いである。

 私が朝ドラにハマったのはこれが初めて。東日本大震災で負った心の傷を抱えつつ、それぞれが新しい生活を取り戻しながら歩む8、9年を描いた作品。これほどまでに表面には見えないさまざまな立場の人の痛みをゆっくりと浮き彫りにし、寄り添うことが、ドラマでできるとは。苦しみを悟られまいとする東北の人々の忍耐強さと思慮深さが切実に迫ってくる、繊細な演技にも毎朝胸を打たれ、隣で見ている娘には「また泣いてるの?」とあきれられる。

 しかし、娘もすっかりとりこになっていて、その日の天気予報をよく教えてくれるようになった。あと1週間で、モネたちとお別れとは、さみしすぎる。いったいこれからどうやって娘を起こそうか。

「週末にね」と返事したのに

 さて、久しぶりにニューアルバムをリリースし、ここ数週間どたばたしているわが家。週末には出張に同行してもらうこともあり、のんびりするということがなかなかない。

 先日、バタバタと夕飯を作っている時、娘がふとつぶやいた。「あのさぁ、前からビーズやりたいって言ってるじゃん? でもぜんぜん時間がないんだよ。保育園いって、帰ってきて、ご飯作る間だけじゃできないし、食べたらお風呂はいって寝て、また保育園のくりかえし」と。たしかに、ビーズで作りたいものがあると言いだしてもう数週間たっている。すこし大人が手伝ってあげないと難しい。また週末にね、なんて返事をして、一緒に取り組む時間をとれていない。まだこんなに小さい子どもに、「忙しい」と言わせてしまうなんて…とさすがにショックであった。私は貪欲なのだ、と気づく。

 よく「母になってできなくなったいろんなこと」を耳にするが、自分を振り返ると、何も諦めていないのだ。歌手活動、友人との時間、旅、ボランティア、遊ぶこと、を全部やろうとしている。時に母時間にそれらを混ぜこぜにすることで、力ずくでもやっている。娘の時間も、つい習い事やお出かけで有意義にしようとしてしまう。でもふと、ただぼんやりする、退屈するくらいの時間も必要なのだと思う。今日こそは、ごはんをそのへんで買って、帰ったら娘とビーズで遊ぼうと思う。さて、いざお迎えへ。 (ミュージシャン)

コメント

  • 子育てってこれが最善だとか、これが正解だ なんてのはないのですよねー 完璧にこなそうとすると壊れちゃうので 無理のない範囲で自分を許してあげないと。 子供を育ててるつもりで、実は子供に気付かさ
     
  • ずっと以前、矢野顕子さんが「子どもにあげられる1番のものって“時間”なんですよ」ておっしゃってたのを思い出しました。 なにもしないでただ一緒にいる時間、大切ですね。緩急大事だと思います