〈坂本美雨さんの子育て日記〉66・大切な存在の生と死のこと
サバ美の手術 偉大な音楽家の死
前回、もうすぐ手術を受けると書いたうちの猫サバ美は、無事に術後1カ月たち、穏やかに過ごしている。ばっさりと縦に開いていた傷口もすこし凹凸があるくらいで、そられたおなかの毛もふわふわとした産毛が気持ちいい。サバ美が受けた大手術の術後としては獣医師も驚くほどの回復力で、入院も2泊のみ、家に帰ってからはどんどん動き回って棚の上に登ろうとするのをまだだめーー!と止めていたほど。
生き物が日に日に回復する様は神秘的だ。当人の意志や努力とは別のところで、治癒力が身体を乗っ取るとでもいうような、大きな力を感じる。自分の子宮筋腫の手術や帝王切開の時に感じた、その「日に日に良くなる」という実感は、その後の私の人生を支えている。生きていればいつか傷は癒えると、どんなに痛い時も思い出す。希望が片隅にある。
先日、偉大な音楽家が亡くなった。親戚のような特別な人だった。直接ありがとうと伝えることはできなかったが、それでも、彼が残した多くの素晴らしい曲たちや歌声、言葉を私たちはまだ味わうことができ、彼が力を振り絞ってたたいたドラムの音色も録音されて永遠に残っている。
父もまた、病と共に生きながら、音楽制作を続けている。彼に、闘病、という表現がいまいちぴたりとこない気がするのは、彼は音を生み出すことで病すらも自分の命と変えていっている気がするから。彼の治癒力、つまり生きようとする力は音楽。もしも肉体が回復しなかったとしても、尽きることのない生きる力は周りに希望を与え続ける。
さて、サバ美は素晴らしい先生のおかげで手術から無事に帰還したが、その後、切除した腫瘍が珍しいがんであることが発覚した。転移するのか、この先どのくらい一緒にいられるのかはわからない。一日一日がとても尊く、一緒に過ごせる時間は柔らかく光り輝いている。
そんなわけでここのところ、大切な存在の生と死のことをいつも考えている。それは決して暗いものではなく、まだまだ想像もつかない困難や悲しみが待ち受けているのかもしれないけれど勇敢に向き合えるようにと、ただただ祈っている。ああ、子育て日記なのに娘が登場しなかったが、昨日は忘れ物が多すぎてついに小学校の担任の先生から電話がかかってきた。生と死と、それから娘の忘れ物についても、考える日々だ。(ミュージシャン)
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