〈坂本美雨さんの子育て日記〉81・社会の中の一番小さな声 私が全力で味方しないで、誰がするんだ
娘の苦笑いに「ちょっと待てよ?」
たまにふと考える。これが心配だ、変わってほしい、もっと良くしたい、そう思いながら死んでいくんだろうなと。あぁ社会が良くなった、これなら娘を置いていけると心から安心して旅立てる時は来ないのだろう。父(編集注・作曲家の坂本龍一さん)も、これからさらにひどくなるであろう気候変動のなかで生きていく私たちのことを意識があった最後の時まで心配していた。
先日、娘が朝学校に向かうバスに乗ろうとした時、Suica(スイカ)のチャージ金がないことに気づき、万が一のために持っている小銭で支払ったらしい。そのことはその日も聞いていたのだけど、次の朝、改めて話し始めた。「昨日さあ、バスの運転手さんにさ、当たり前のこと言われちゃった」と苦笑い。どうやら、Suicaをピッとするところで慌ててしまい、「ちょっと待ってください」と言ったらしい。すると運転手さんが即座に「待てませんよ」と返したという。
娘の苦笑いを見つめて、「いやちょっと待てよ? お金がなくて乗れないかもしれない小学生に対して、そんな言い方じゃなくないか?」と思う。娘は、そう言われて当然~と笑おうとしていたが、改めて言ってくるということは、彼女の中でそれは小さな違和感だったんじゃないだろうか。
運転手さんも朝の混んでいる時間帯でカリカリしていたんだろう。状況を直接見ていないのでわからない。だけど、「それ全然優しくないね、あなたはそんな言い方されるようなことしてないし、それが当然だと思わないで」と伝える。過保護だと言われるかもしれないけれど、彼女が何でもないことのように言って傷ついてないふりをしていることを、私が全力で味方しないで誰がするんだ、という気持ち。
選挙権のない子どもたちだからこそ
私もNHKの朝ドラ「虎に翼」に日々勇気づけられている一人なのだけど、「どんなに小さくたって、おかしいと声を上げた人の声は決して消えない。声を上げる役目を果たし続けなきゃね」と言ったトラちゃんのように、これは違うよという小さな自分の声も人の声もちゃんと聞いて、踏ん張り続けなきゃいけないんだと思う。
都知事選が終わり、結果にため息が出てしまうけれど、蓮舫さんが「私はずっと子どもの支援に力を入れてきた、なぜなら選挙権がないから。声を上げられない存在だから」と言っていたことを繰り返し思い出している。社会の中の一番小さな声を聞こうとする人にリーダーでいてもらいたいし、自分も身の回りでそうでありたい。
【前回はこちら】80・「自分のためだけじゃなく一生懸命になること」 運動会で娘を通して疑似体験
坂本美雨(さかもと・みう)
ミュージシャン。2015年生まれの長女を育てる。SNSでも娘との暮らしをつづる。
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