子どもたちにエアコン格差 国は「教室28度以下に」通知したけれど…
設置率は自治体によってバラバラ
通知は校内の明るさや騒音の目安となる「学校環境衛生基準」の一部改正を受け、4月2日付で行われた。「10~30度」が望ましいとされていた教室の温度が、「17~28度」に変更された。文科省健康教育・食育課の担当者は「子どもの健康の保護、快適に学習できる環境づくりのために見直した」と説明する。ただし、基準に拘束力はないため、努力目標だ。
1964年にこの基準ができてから、室温が見直されるのは初めて。背景には家庭でのエアコンの普及がある。同年当時はわずか1.7%にすぎなかったが、現在は9割超。「昔は暑さにさらされるのが当たり前だったが、子どもを取り巻く温度環境は変わった。その変化に合わせ、基準を見直した」(同担当者)
教室の室温の基準が、家庭の実態に沿って改められたことは好ましいが、見過ごせないのが、公立小中学校でのエアコンの設置率。昨年4月1日時点で普通教室の49.6%と、半分にも満たない。しかも、設置の可否は市区町村が判断するため、自治体間でかなりばらつきがあるのが実態だ。
東京都は99.9%、愛知県は5.9%
高松市は49の市立小、23の市立中の全教室に空調を設置している。「2010年の猛暑を受け、子どもの健康確保のために検討を始めた。14年度中に設置が完了している」と同市教育委員会の担当者は胸を張る。
基準の見直しに「現在も、気温が28度を超えたら空調をつけるように運用している。問題なく対応できます」と万全だ。
文科省が行った都道府県ごとの調査(昨年4月1日時点)でも、香川県の空調設置率は97.7%と高い。東京都はそれを上回る99.9%。「空調の設置で独自の上乗せ補助を10年度から行ったため、設置が進んだ」(都教育庁の担当者)
一方で、設置が進まず、「暑い教室」のままの地域も多い。愛媛県今治市教委の担当者は「一カ所も設置されていない。設置に向けた動きもない」と話す。「耐震工事などが優先される。教室には温度計を設置し、暑くなったら窓を開けるなどして対応したい」。愛媛県全体の設置率も5.9%にとどまる。
所沢市は住民投票にまで発展
エアコン設置の是非が15年、住民投票にまで発展したのが、埼玉県所沢市だ。上空を飛ぶ自衛隊機の騒音で窓を閉めざるを得ない小中学校への設置方針に、市長が「騒音は許容できる範囲だ」と反対したためだ。投票結果は賛成多数。今年2月には、市長が全小中学校への設置を表明した。
もうすぐ暑い夏。室温の管理は、子どもの健康にも直結する。教育評論家の尾木直樹氏は「以前の基準の30度は暑い。温暖化の影響か、暑さが厳しくなる中、温度の見直しは当然だ。子どもが学校の管理下で熱中症にかかる事故が毎年、起きていることを考えると、遅きに失したとも言える」と強調し、文科省に注文をつける。「暑さ対策にはエアコンが重要だが、1000教室あたり25億円ほどかかると言われ、地方自治体にとっては大きな額。文科省は見直しを通知するだけでなく、教室のエアコン設置についてももっと予算を割くべきだ」
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