教科書を”読めていない”子どもが多かった 読解力テスト「RST」、板橋区が都内初の導入

(2019年5月6日付 東京新聞朝刊)
 東京都板橋区は今年度から74の全区立小、中学校で、基礎的な「読み解く力」を測る「リーディングスキルテスト(RST)」を都内で初めて導入する。読み解く力は国語だけではなく、算数や理科にも必要な力だが、「読めていない子」が少なくないため。連休明けから、国立情報学研究所の新井紀子教授(56)らが開発したRSTを中学全学年と小学6年生に受けさせ、現状の把握に乗り出す。 

★問題例の答えは「同じである」「(1)と(2)」

「東ロボくん」の新井教授「読解力こそが人間の優位性」

 4月初めに新井教授による説明会が区役所であり、全校の校長、副校長約140人が出席した。新井教授は2011年からAIロボ「東ロボくん」を用いて、「ロボットは東大に入れるか」というプロジェクトに関わった数学者。「ほとんどの子は、借金して大学を出てもAIに仕事を奪われます」とシビアな未来図を校長たちに突きつけ、「ロボットに文章を読み解く力はない。読解力こそが人間の優位性。全員が教科書を読めるようにすることが公教育の役割です」と強調した。

 長年、生徒の学力不足に悩んできた同区。前の学年の復習に力を入れるなど独自の学習方式を導入し、昨年度の全国学力テストでようやく平均値を超えたが、新たな課題も見つかった。「無回答が多く、記述式の問題が解けない」と中川修一教育長。実際に中学の社会科で教科書を音読させると、読めていなかったという。「教科書が読めないと予習も復習もできない」。そんな時、新井教授の研究を知った。

対象者は1万人 3年継続でデータ収集

 RSTは新井教授が所長を務める一般社団法人・教育のための科学研究所が提供するテストで、文節同士の関係性の理解、省略された名詞句が分かるか、など6項目から成る。出題はオンラインで、一人一人の回答状況や解く時間で次の問題の難易度が変わる。

 板橋区での対象者は1万人。RSTを導入した自治体は他にもあるが、これだけ大規模なデータが集まるのは板橋だけ。同区は3年間RSTを続け、読解力を伸ばすための授業の開発を目指す。

新井教授「読解力不足 板書しなくなったことも一因」

居並ぶ校長、副校長に読み解く力の大切さを説明する新井紀子教授=板橋区で

 もともとはAIを賢くするために教科書を読み込み、RSTの原型を作った新井教授。AIにできること、できないことが分かり、読解力の重要性を確信したという。

 「国語、算数、理科それぞれの教科書で文章の書かれ方が違う。子どもたちはその違いを分かった上で読まなければいけないが、『教科書の読み方』の研究はほとんどなかった。教科書が読めないと勉強が分からない。やる気も起きない。これは大変なことだと思った」

昨年、一部の中学で試験的に実施されたテスト(板橋区提供)

 読解力不足は黒板をノートに写さないことも一因のようだ。子どもは書くのが遅いからと、最近はプリントの空欄に習った言葉を記入し、ノートに貼るだけ。これでは文章を理解する力は育たないという。

 板橋区で実施する意義を「就学援助を受ける家庭や、親が外国出身の家庭が多く、多様性がある区。ここで全員が教科書を読めるようになり、成績が上がれば、全国で適用できる。またお金を出して塾に行かなくても自習できることになる」と新井教授。「3年間の板橋の結果を分析し、読解力が上がる道筋を『科学』にしていくことが私たちの仕事」と話している。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2019年5月6日