今こそ考えたい「夏休みの自由研究」歴史と意義 いつから宿題に? 大切な3つのポイントは?
1947年に登場 「教科」として授業も
「自由研究」という言葉を調べてみると、1947(昭和22)年にできた戦後初めての学習指導要領に登場します。学習指導要領は学校での教育内容の基準を示すもので、自由研究は「教科」と記載されています。小学4年生から中学生の教科で、小学校では年間70~140時間(週に2~4時間)を、中学校では、習字、外国語、職業とともに選択科目に位置づけられ、年間35~140時間(週に1~4時間)を充てるよう目安が示されています。
小学校では、この学習指導要領で「修身・公民・地理・歴史」が「社会科」になったほか、「家庭科」が新たに加えられるなど、戦後の教育の方向性が示されました。その中で「児童の個性の赴くところに従って、それを伸ばして行くことに、この時間を用いて行きたい」との目的で、「自由研究」という教科が設けられたのです。
クラブ活動のよう? 4年で教科から消滅
内容については「さまざまなものが考えられ」る、と学校現場の裁量に任されていますが、「児童が学年の区別を去って、同好のものが集まって、教師の指導とともに、上級生の指導もなされ、いっしょになって、その学習を進める組織、すなわち、クラブ組織をとって、この活動のために、自由研究の時間を使って行くことも望ましいことである」とも。音楽や書道、手芸などのクラブ活動でも良いとされています。
ただ、実際に各学校でどんな授業が行われていたかを記録した資料などは文部科学省も確認できておらず、分からないとのこと。4年後に改定された学習指導要領では、教科としての自由研究はなくなっています。
1960年に「自然科学観察コンクール」
短い期間でしたが、教科だった自由研究。今は文科省はどう位置づけているのでしょうか。文科省教育課程課の担当者は「学習指導要領で規定しているものではありません。夏休みの宿題として取り組ませる学校があることは承知しているが、自由研究を課すか課さないか、内容や量についても各学校が決めるものです」と説明しています。
自由研究の歴史を知る手がかりとしては、自治体や全国規模で行われるコンクールもあります。中でも古くから実施されているのが、小中学生対象の「自然科学観察コンクール(シゼコン)」。1960(昭和35)年から開催しており、今年で60回目。当初は、顕微鏡を使った自然科学研究のみを募集していたそうです。事務局の担当者は「当時の資料には夏休みに自由研究が行われていたことが書いてあり、コンクールもこうした子どもたちの研究を対象にしていたようです」と話します。少なくとも60年ほど前からは夏休みに自主的に研究に取り組む子どもがいたようです。
展覧会にも力を入れ、宿題の定番に?
学習指導要領に定めもなく、文字通り「自由」な研究だからこそ、悩みも深まる自由研究。取り組みのヒントを昭和女子大学の人間社会学部准教授、白數哲久(しらす・てつひさ)さん(50)に聞きました。自由研究をテーマにした研究も行っている白數さんは「結果を求めすぎないこと。子どもの研究を深めるために大人がガイドをすることが大事」と強調します。
白數さんによると、1947年に「教科」になった当時は、子どもたちが自由に興味関心を追究する学習が奨励された時期だといいます。教科の枠にとらわれずに調べたり、体験したりする現在の「総合的な学習」の原型とも言えるかもしれません。
教科ではなくなった後も、夏休みという長期の休みを利用して、昆虫標本や絵日記、観察日記などに取り組む子どもたちはいました。白數さんは「20年ほど前から、市区町村や都道府県などの自由研究コンクールが増え、各学校も校内の展覧会に力を入れるようになったのでは」と指摘。夏休みの宿題の定番として、全員に提出を求める学校が増えていったのではないかとみています。
疑問を書きため、必ず本にあたり…
一方、白數さんは「コンクールの前段階として、校内の展覧会が盛んになったことによって、保護者同士の競い合いが起きやすくなった面もある」と懸念します。子どもの興味関心より、見栄えや結果を求めたり、自由研究に時間が取られすぎて、せっかくの夏休みに多様な体験ができなくなったり、ということが起きています。
自由研究は、子ども自身が興味や関心、不思議に思うことを追究し、世界を広げていくことが目的とされます。取り組むポイントとして、白數さんは、
①日ごろから子ども自身が疑問を書きためておくこと
②必ず本にあたり、それでも分からないことを調べること
③親は結果を求めすぎず、その子らしさが出ればいいと考えること
―を挙げます。「親は無関心より関わった方がいい。過干渉と思ったら翌年変えればいいのです」と話します。
例えば、子どもが「お化けはいるのか」など調べようがなかったり、難しい問いを立てたりした場合、うまく研究を軌道修正するのも親の役目だといいます。「親が知っていることもある。答えを教えるのではなく、『この本で調べてみたら』『一緒に図書館行こうか』などと声をかけ、研究の行き先をある程度、ガイドするのは大切。それによって子どもの研究が深まります」。
まだ自由研究が終わっていない家庭は、親もある程度、関わる必要がありそうです。白數さんは「終わった時、子どもが満足した表情をしているか。『見て!見て!』と得意げに話すような自由研究ができれば、理想ですよね」とエールを送ります。
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