前向いて無言の給食「違和感しかない」 分散登校、コロナ対策の実態は 三郷市立北中の場合

近藤統義 (2020年6月10日付 東京新聞朝刊)
 新型コロナウイルスの影響による休校が明けて1週間余り。子どもたちの感染リスクを低減させながらいかに教育活動を軌道に乗せるか、学校現場で模索が続いている。埼玉県三郷市内で最も多い約640人の生徒を抱え、12日まで分散登校を実施する市立北中学校で、取り組む様子を見せてもらった。

前を向いて給食を食べる生徒たち。教室は静まり返っていた=三郷市立北中で

学年別の門から登校 体温・マスクなどチェック

 「体温OK マスクOK 記録票OK 元気な君は教室へ」

 校舎に入ると、こんな言葉が昇降口に掲示されていた。廊下や階段には右側通行を意識するよう、中央にテープが貼られている。「子どもの安全を考え、全て教員たちが準備してくれたものです」。肥沼(こいぬま)武史校長(59)が教えてくれた。

 「3密」対策は朝の通学時から始まる。1年は東門、2年は正門、3年は南門と入る校門を分けて指定。教員が昇降口に立ち、自宅での検温とマスク着用、健康観察記録票の記入に漏れがないか、生徒一人一人に確認する。一つでも忘れた場合は別室に移動し検温などを行い、異常がないことを確かめて教室に迎える。

せき・だるさがあれば、急造の「第二保健室」へ

 北中学校の分散登校は、40人弱のクラスを2班に分け、1日おきに登校する仕組み。換気のため扉を外した教室もあり、生徒たちは1メートルほど間隔を空けて座っていた。「生徒たちは大きな声を出さない。人数も少ないので、以前より授業は静かですね」と田村重治教頭(51)。3年の男子生徒は「休校が長かった分、まだ学校のリズムに慣れず、慌ただしく感じる」と漏らした。

 保健室にも、工夫が施されていた。入室前に症状を聞き、せきやだるさがあれば近くの金工室に案内し、早退させる。別の生徒と接触しないよう特別に設けた「第二保健室」だ。菊地あけみ養護教諭(58)は「熱中症が増えてきたら、医師ではないので新型コロナの症状と見分けがつかない。対応が難しい」と本格化する暑さを警戒する。

金工室で「第二保健室」の運用を話し合う田村教頭(右)と菊地教諭

生徒が近づいたら「近いよ」担任がすかさず注意 

 給食の時間も様変わりした。生徒たちは前を向いたまま食べ、会話はほとんどない。戸惑ったように、周りをキョロキョロと見渡す子も。3年の学年主任を務める田口卓嗣教諭(39)は「違和感しかないです」と苦笑いを浮かべた。

 食後は、三郷市歯科医師会のアドバイスなどもあり、唾液の飛沫(ひまつ)が飛ばないよう歯磨きをやめ、うがいのみだ。距離を保つ足跡マークが示された手洗い場では仲良しの生徒同士が話しながらハグすると、「近いよ、近い」。担任がすかさず注意した。

苦悩する校長「楽しいはずの場所で窮屈な思いを」 

 下校時、右側通行を守って階段を下りてくる生徒たちは、前後の生徒と近くなると「ディスタンス(距離)、ディスタンス」。あえて言葉にしてストレスを笑い飛ばしているようだった。

 通常登校に戻る15日以降は、クラス全員がそろい、教室の密集状態の回避などさらに課題は増える。肥沼校長は頭を悩ませながら、教員たちの胸の内を代弁する。「学校は楽しい場所であるはずだが、子どもに窮屈な思いをさせている。感染対策をどこまで細かく指導するべきなのか、その指導が本当に望ましいのか、手探りです」 

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2020年6月10日