危険な通学路で子どもを守るため、住民が声を上げよう 速度制限や電柱移設が実現した船橋市の事例

加藤豊大 (2022年3月26日付 東京新聞朝刊)

通学路に導入された「ゾーン30」の路面標示を前に「住民にしかわからない実態を届けるのが重要だ」と話す栗山正隆さん=船橋市習志野台で

 「歩道がなく子どものすぐ近くを車が通る」「抜け道になっていて通行量が多い」―。昨年6月の千葉県八街市の児童死傷事故を受け、全国で通学路の安全点検が進んだ一方で、この調査から漏れた危険地点が各地に残る。子どもらを守るために何ができるのか。過去に住民らが主体的に動いた事例を踏まえ、生活道路の安全確保に詳しい埼玉大学大学院の久保田尚教授(63)に対応策を聞いた。

日大交通システム工学科と共同調査

 15日夕方、船橋市習志野台8の住宅街で、ランドセルを背負った小学生らが列になって下校していく。通学路には、区間内に時速30キロの速度制限を示す「ゾーン30」の道路標示や、新しいガードパイプが整備されている。

 地元自治会長の栗山正隆さん(76)は「この辺一帯の生活道路は国道の抜け道になり、車両の衝突事故も多かった。いつ子どもが巻き込まれてもおかしくないとの危機感があった」と振り返る。

 栗山さんらは2015年、通学路のすぐ近くに大型商業施設建設の計画があると分かると、町内の全1700世帯にどこが危険だと思うかアンケート。「道幅が狭い」「車両が一時停止を守らない交差点がある」。危険地点を洗い出した「ヒヤリ・ハット地図」を作った。すぐ近くにキャンパスがある日本大学交通システム工学科(船橋市習志野台)の教授室にも駆け込み、学生らと道路の実態と必要な対策を調査。危険の特徴ごとにゾーン30導入や電柱の移設といった具体的な対策を市に求め、20カ所ほどで次々と実現させていった。

 栗山さんは「行政や警察では分からない実情が分かった。住民自らが声を上げることが大事だ」と語る。

「ハンプ」など予算を抑えた対策も

 久保田教授も、通学路の安全確保を自治体などに訴える時、「一人ではなく住民らの意見をまとめれば行政としても無視できなくなる。習志野台のケースはその好例だ」と説明。町内会や学校のPTAといった単位で近所の人らの声を集約するのが効果的という。

 ただ、自治体がどの程度応じてくれるかは、各担当職員の意識や熱意次第でばらつきがあるとも。特に歩道や信号機の新設を求めるのは予算や用地確保でハードルが高く、実現が難しいことが多い。

 道路を盛り上げて減速させる凸部「ハンプ」の設置や、登下校時間帯に限り車両通行止めにすることなどを念頭に「近年は予算を比較的かけない効果的な対策のメニューが増えている。自治体も言い訳をせず、住民らの声に耳を傾けるべきだ」と話した。