「指導死」をなくしたい 遺族らの思い「生徒指導提要」の初改訂に反映 不適切な指導例を記載

榎本哲也 (2022年8月29日付 東京新聞朝刊)

「『指導死』をなくして」「子どもの立場にたった生徒指導を」と訴える遺族=24日、東京・霞が関の文部科学省で

 教師が児童生徒をどのように指導するかを解説した手引書「生徒指導提要」が今月、初めて改訂された。改訂の動きを報道で知り、昨年から文部科学省に要望を繰り返してきたのが、教師の不適切な指導がきっかけで自殺した児童生徒の遺族たち。「『指導死』を無くしてほしい」。遺族の思いが盛り込まれた改訂版は近く、同省ホームページ(HP)で公開される。 

夏休みの宿題忘れ、激しく叱責された息子が自殺

 遺族でつくる「安全な生徒指導を考える会」は昨年から計3回、文科省に要望してきた。不適切指導の具体例を載せることや、デジタル版の提要に関連資料のリンク先をつけて読みやすくすることなどを求めた。同省幹部と面談する機会も得た。

 「不適切な指導が、未熟な子どもの引き金を引いてしまうことがある」。改訂案の公表に先立つ24日、都内であった「考える会」などの会見で、鹿児島市在住の40代女性は話していた。2018年、中学3年だった息子=当時(15)=が夏休みの宿題を忘れたことで担任教師から激しく叱責(しっせき)された。息子はその日、自殺した。

改訂案に「懲戒と体罰、不適切な指導」が加わる

 26日に同省HPで公表された提要の「改訂案」では、考える会の要望が反映された。目次に「懲戒と体罰、不適切な指導」という項目が加わり、本文に「不適切な指導と捉えられ得る例」が箇条書きで記されていた。実際の自殺事例をもとに指導の留意事項を記した同省HPへのリンク先も記載されていた。

 考える会の20代女性は24日の会見で「手本となる指導例ばかりでなく、不適切な指導例も現場の先生に知ってほしい。よかれと思った指導でも、不登校や自殺につながることがある」と要望の意図を説明していた。

 女性には弟がいた。札幌市の高校1年だった弟=当時(16)=は13年3月、トラブルの発端と教師に決め付けられ、ひどい言葉を浴びせられた。弟は翌日、地下鉄構内で自殺した。

 改訂案の公表後、女性は「私たち遺族の思いが伝わった提要になった。これが学校現場に浸透して、子どもの自殺を防いでほしい。頑張っている先生が加害者にならないでほしい」と話した。

生徒指導提要 

生徒指導の理論や考え方、指導方法などをまとめた学校・教職員向けの手引書。文部科学省が2010年に策定し、全国の小中高校に配布している。ページ数が多いことなどから学校現場でじゅうぶん活用されていないとの指摘もある。時代の変化や、インターネットの普及など新たな課題、いじめ防止対策推進法など新たな法整備を踏まえた改訂版を策定しようと、昨年夏から有識者でつくる「生徒指導提要の改訂に関する協力者会議」が議論を開始。今月26日に改訂案をまとめた。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2022年8月29日

コメント

  • 併せて教員が生徒に殴られた時の対応についても明文化して欲しい。極端な例で恐縮だが。
    教師のバント 男性 50代