生まれつき読み書きが苦手な発達性ディスレクシア 見逃されやすいが「1クラスに2、3人」 早期発見で適切な支援を
小1で違和感 音読でつっかえる
「どうして自分は、みんなと同じように音読できないんだろう」
東京都中野区療育センターの言語聴覚士、関口裕昭さん(27)が、教科書をスラスラ読めない自分に違和感を覚え始めたのは小学1年生の時だった。つっかえたり、飛ばして読んだりしてしまう。「できない子と思われるのは恥ずかしい」と誰にも言えなかった。音読のために教科書を丸暗記し、できない自分を隠した。
中学に入ると学習量が増え、丸暗記では通じなくなった。出題範囲が限られた定期テストはよくても、実力テストではふるわない。漢字や英単語を覚えるのに苦労し、教科書にルビを振るだけで勉強時間が過ぎる日々だった。
9年間一人で悩み続け、高1で…
文字を音に結び付けることが困難な発達性ディスレクシアと判定されたのは、高校1年生になってから。「この苦しさを誰にもわかってもらえない」と悩み、自ら病院を受診したことがきっかけだった。
その後、授業では、音読は避け、教師からの質問に一問一答式で答えるなどの配慮が受けられるようになった。「音読で指されない安心感は本当に大きかった」と振り返る。現在は、特性に理解のある職場を選び、支援する側として経験を生かしている。
自信喪失や学習意欲の低下にも
発達性ディスレクシアは、知能や聞いて理解する力、自分の考えを口頭で伝える能力には問題がないとしても、読み書きに困難を示す障害。生まれつきの場合を「発達性」とし、「後天性」と区別する。
目で見た文字一つ一つを音に変換することが難しく、文章を読むのが遅い、読み間違えるといった症状が特徴だ。このため内容の理解に時間がかかり、自信喪失、学習意欲の低下、読書が難しいことによる知識不足にもつながりやすい。
教育現場では小中学生に1人1台のタブレット端末が配備された。デジタル教科書や文書読み上げ機能、オーディオブックなど情報通信技術(ICT)で対処できることも多い。関口さんは「知識を吸収しやすい時期に適切な支援を受けるため、早期発見に力を入れてほしい」と話す。
小学生で8%「就学時に検査を」
早く気付くために、家庭や学校では子どものどんな様子に注意すればよいだろうか。発達性ディスレクシア研究会(さいたま市)は特徴的な症状を紹介している。
例えば、小学1年では、平仮名をよく読み間違えることなどが特徴。このため、茨城県内のつくば市など4市では、就学時健診で、読み間違えやすい平仮名10文字を読ませる検査をし、入学後にフォローするなど、早期発見に取り組んでいる。
元筑波大教授で、NPO法人LD・ディスレクシアセンター(千葉県市川市)の理事長を務める宇野彰さんの調査で、小学生では約8%(1クラスに2、3人)いるとされる発達性ディスレクシア。宇野さんは「見た目では分かりにくい障害。就学時の検査によって早期に発見するシステムを整え、検査・指導のできる教員を養成していく必要がある」と指摘する。
特性を紹介、DLできる冊子も
まだまだ十分に知られていない発達性ディスレクシアの特性や、サポートのヒントを伝える動きも生まれている。
「練馬区社会福祉協議会 練馬ボランティア・地域福祉推進センター」は6月、冊子「先生・保護者・みんなのための 発達性読み書き障害 早わかりガイド」(宇野彰さん監修)を作成した。
これまで支援してきた複数のケースを参考に、板書や音読、漢字の書き取りに苦しむ小学3年生の男の子の特性に周囲が気付き、適切な配慮を受けられるようになるまでのストーリーを漫画で紹介。家庭や学校でできる支援や、保護者による座談、成人した当事者の体験談も載せている。
練馬区社会福祉協議会のサイトでは、冊子をダウンロードできるほか、動画も紹介している。
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