受けないほうが得? 都立高入試の英語スピーキングテスト、不公平になりかねない「仮想得点」 11月の実施は目前だが…

沢田千秋 (2022年9月30日付 東京新聞朝刊)
 来年度の東京都立高入試で初導入される英語スピーキングテストの公平性を巡り、29日の都議会定例会の一般質問で議論が交わされた。30日は、テストの入試導入を阻止する議員提出条例案が文教委員会で審議される予定。一部保護者らも住民監査請求や署名活動で、テストを止めようと動く。11月の実施を目前にしても反発が続くテストの問題点を探った。 

2019年11月に初めて行われたスピーキングテストの「プレテスト」=東京都内で

英語スピーキングテストとは

 英語の読む、書く、聞く、話すの4技能のうち、話す力の到達度を測る。11月27日に実施予定。ヘッドホンとタブレット端末を使い15分間で8問に解答し音声を録音する。問題ごとに英文読み上げや英語で意見を述べる能力などをみて100を上限にスコアをつける。スコアはA-Fの6段階評価に変換し、都立高入試で20~0点を加点。2021年秋のプレテストは公立中592校の約6万4000人が受験。平均スコアは53.7、C評価(入試では12点)が27%で最多だった。

学力試験の得点が同じ受験生の平均点

 「スピーキングテストの勉強を頑張った子が損をする可能性があり、(テストを)受けない子は得はしても損はしない制度だ」

 29日の一般質問に立った都民ファーストの会に所属する米川大二郎都議は取材に対し、テストの問題点をこう指摘した。米川都議は知事与党の同会派でテストの入試導入に異議を唱える1人だ。

 11月に予定されるテストは、都内の公立中3年生の全員が対象。来年度の都立高入試で、学力試験の得点と中学で学ぶ9教科の成績を反映した調査書点の合計に、新たに加えられる。

 国立中と私立中の生徒にはテストを受けない選択肢があり、テストなしに都立高を受験した場合、「仮想得点」が与えられる。仮想得点は、英語の学力試験の得点が同じ受験生らの平均点を算出。テストの評価は4点刻みのため、学力試験で上回る受験生が、テストを受けたばかりに、テストを受けなかった受験生より、合計得点で下回ってしまう逆転現象が排除できない。

仮想得点を狙う「戦略的不受験」も?

 本年度の都立高入試で国立中、私立中の受験生は全体の約2%を占めた。仮想得点の算出方法について、浜佳葉子都教育長は29日の都議会本会議で、「合理的な最善の方策」と強調した。

 公立中の生徒も病気や事故など理由書を提出すれば、テストの受験を辞退し、仮想得点が得られる。米川都議は「公立中の生徒も受けない方が得だと考え、戦略的不受験が起きかねない。入試の不公平を解消するのが行政の役割ではないのか」と批判した。

 長男が区立中3年の母親(51)は、スピーキングテストのパンフレットを見ながら、長男が「受けない方が得するんじゃないの」とつぶやくのを聞いた。都教委に対し「スピーキング能力を上げたいという目的には賛成するが、不完全なテストを入試に使うより、公立中でのカリキュラムや教材の発展に知恵を出してほしい」と注文した。

運営委託先はベネッセ 個人情報流出の被害に遭った保護者「信用しろという方がおかしい」

 受験生と保護者は、11月に迫るスピーキングテストに不安を募らせる。テストの停止などを求めて都に住民監査請求した1人で、公立中3年の次女がいる母親(45)は2014年、テストの運営を委託された出版大手「ベネッセコーポレーション」の個人情報流出事件で被害に遭った。

個人情報の登録を拒否できない仕組み

 スピーキングテストを受ける生徒は受験登録時、ベネッセのサイトに個人情報を入力するが、「個人情報の取り扱いに同意しない選択肢がない」(住民監査請求を担当する大島義則弁護士)ため、拒否できない。

 この母親は「今回のテストに泣く泣く登録したが、個人情報を扱う委託会社について、学校も都教委もベネッセも答えてくれなかった。信用しろという方がおかしい」と憤る。

調査書点と同等の評価…「許せない」

 ベネッセは、受験生の音声データをフィリピンに送って採点するが、誰が、何人で、どのように採点するか、明確な説明がないことも懸念されている。

 母親は「次女は英語の中間、期末テストやスピーチなど英語の授業を手を抜かずに頑張ってきた」と強調する。その成果である英語の調査書点とスピーキングテストが入試で同等の評価と知った日、「学校から帰ってきて『許せない』と怒りで震えていた」と振り返った。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2022年9月30日