校則を見直す「ルールメイキング」主役は生徒たち 失敗から学んだ民主主義の基本 対話を重ねて説明を尽くす
「制服の選択制」2時間の議論
昨年12月22日、終業式が終わりほとんどの生徒が帰った栃木県立足利清風高校。広い畳部屋に20人を超える生徒と10人の教員が集まり、5つのグループに分かれて膝を突き合わせて話し合っていた。
「いじめられるのでは」「男女別ではなく、ストレート型ウエーブ型みたいに制服の形で分けてはどうか」
テーマは「制服の選択制」。男子のスカート着用や男女別制服の是非などを2時間かけて議論した。進行役を務めた3年針ケ谷(はりがい)侑大さん(18)が締めくくる。「今回の対話会の結果を反映し、校則の改正案をまとめます」
当初は生徒主導ではなかった
その様子を見ていた生徒指導部長の小滝(こたき)智美教諭(51)は「もう生徒たちに任せて大丈夫かな」と笑った。
2021年春、小滝教諭が生徒に呼び掛けて始まった、校則を見直す「ルールメイキング委員会」の取り組み。「さすがに厳しすぎる」と生徒指導部長が漏らすほどの校則は、約90項目に及ぶ。前髪の長さは眉毛にかかる程度、女子は指定の紺ソックス-など、事細かに決められている。
有志で集まった生徒たちが全校生徒アンケートを実施し、校則見直しを進めた。夏には、授業の合間にも自販機が使えるようになり、授業中も水分を補給できるようになった。「ただ、生徒主導ではなかった」と小滝教諭は振り返る。
教員たちに反対され悔し泣き
ある失敗が生徒たちを変えた。2022年2月にあった職員会議。1年生だった石山茶那さん(16)と川俣彩花さん(16)が、髪形の規定や夏用制服、冬用制服それぞれの着用期間の改正案などを説明した。承認されれば、校則が大きく変わる-。だが、教員らは反対した。
「全校生徒を巻き込めていないのではないか」
地元企業に足を運び「身だしなみ」の許容範囲を聞き取りするなど準備を重ねただけに、石山さんたちは悔しくて泣いた。「急ぎすぎた。みんなの意見を拾えていると決め付けていたかもしれない」。翌日には、反対した教員一人一人に話を聞いて回っていた。
生徒たちは一方的ではなく、民主主義の基本である説明や対話を重視するようにした。校則の改正案をいきなり職員会議に示すのではなく、生徒総会で説明し、全校生徒の承認を得るようにした。そして、前髪の長さは「目にかからない程度」となり、制服の着用期間の規定の廃止につなげた。
話し合い、否定的な意見も併記
また委員会メンバーだけではなく、他の生徒や教員、保護者を交えて話し合い、さまざまな意見をくみ取る。校則の改正案には、対話会で出た否定的な意見も併記する。
終業式後の対話会は急きょ設定された。テーマとなった「制服の規定」を見直した校則を新年度に間に合わせるには、1月中に職員会議で改正案の承認を得る必要がある。時間がない。
「焦ってますが、実現させます」と針ケ谷さん。同じ3年の藤倉香月さん(18)と吉川桃葉さん(18)が笑い合った。「校則を変えようなんて思ってもいなかった。でも、今は違います」
ルールメイキング(校則見直し)とは
学校の生徒が中心となり教員らと対話しながら校則やルールを見直していく取り組み。認定NPO法人「カタリバ」(東京)が2019年から始め、「みんなのルールメイキング」としてプロジェクトを展開。事務局が生徒らの相談に応じたり、講師を派遣したりしている。2022年10月時点で全国162校(公立7割)が参加し、うち関東は78校。足利清風高校のルールメイキング委員会には1年生7人、2年生4人、3年生3人が参加している。
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