校則を見直す「ルールメイキング」主役は生徒たち 失敗から学んだ民主主義の基本 対話を重ねて説明を尽くす

小川慎一 (2023年1月7日付 東京新聞朝刊)

制服のあり方やジェンダーについて話し合う生徒たち=2022年12月、足利市で(内山田正夫撮影)

 栃木県足利市にある全校生徒527人の県立足利清風高校(普通科、商業科、情報処理科は現3年生のみ)では、地元中学生やその保護者からも「厳しい」と声が上がる校則の見直しが、生徒たち自らの手によって進んでいる。2021年春に始まった取り組みは当初、教員主導だった。だが、制服の校則改正案が職員会議で否決された後、生徒たちは変わった。取り組みの外側にいる生徒、教員や保護者と対話し、改正案を練って説明を尽くす。時間がかかる面倒な方法でも、多くの人が「納得できる」道を探る。

「制服の選択制」2時間の議論

 昨年12月22日、終業式が終わりほとんどの生徒が帰った栃木県立足利清風高校。広い畳部屋に20人を超える生徒と10人の教員が集まり、5つのグループに分かれて膝を突き合わせて話し合っていた。

 「いじめられるのでは」「男女別ではなく、ストレート型ウエーブ型みたいに制服の形で分けてはどうか」

制服のあり方やジェンダーについて話し合う生徒たち

 テーマは「制服の選択制」。男子のスカート着用や男女別制服の是非などを2時間かけて議論した。進行役を務めた3年針ケ谷(はりがい)侑大さん(18)が締めくくる。「今回の対話会の結果を反映し、校則の改正案をまとめます」

当初は生徒主導ではなかった

 その様子を見ていた生徒指導部長の小滝(こたき)智美教諭(51)は「もう生徒たちに任せて大丈夫かな」と笑った。

 2021年春、小滝教諭が生徒に呼び掛けて始まった、校則を見直す「ルールメイキング委員会」の取り組み。「さすがに厳しすぎる」と生徒指導部長が漏らすほどの校則は、約90項目に及ぶ。前髪の長さは眉毛にかかる程度、女子は指定の紺ソックス-など、事細かに決められている。

生徒たちの意見やアイデア

 有志で集まった生徒たちが全校生徒アンケートを実施し、校則見直しを進めた。夏には、授業の合間にも自販機が使えるようになり、授業中も水分を補給できるようになった。「ただ、生徒主導ではなかった」と小滝教諭は振り返る。

教員たちに反対され悔し泣き

 ある失敗が生徒たちを変えた。2022年2月にあった職員会議。1年生だった石山茶那さん(16)と川俣彩花さん(16)が、髪形の規定や夏用制服、冬用制服それぞれの着用期間の改正案などを説明した。承認されれば、校則が大きく変わる-。だが、教員らは反対した。

 「全校生徒を巻き込めていないのではないか」

 地元企業に足を運び「身だしなみ」の許容範囲を聞き取りするなど準備を重ねただけに、石山さんたちは悔しくて泣いた。「急ぎすぎた。みんなの意見を拾えていると決め付けていたかもしれない」。翌日には、反対した教員一人一人に話を聞いて回っていた。

図解 足利清風高校の校則改正の流れ

 生徒たちは一方的ではなく、民主主義の基本である説明や対話を重視するようにした。校則の改正案をいきなり職員会議に示すのではなく、生徒総会で説明し、全校生徒の承認を得るようにした。そして、前髪の長さは「目にかからない程度」となり、制服の着用期間の規定の廃止につなげた。

話し合い、否定的な意見も併記

 また委員会メンバーだけではなく、他の生徒や教員、保護者を交えて話し合い、さまざまな意見をくみ取る。校則の改正案には、対話会で出た否定的な意見も併記する。

 終業式後の対話会は急きょ設定された。テーマとなった「制服の規定」を見直した校則を新年度に間に合わせるには、1月中に職員会議で改正案の承認を得る必要がある。時間がない。

 「焦ってますが、実現させます」と針ケ谷さん。同じ3年の藤倉香月さん(18)と吉川桃葉さん(18)が笑い合った。「校則を変えようなんて思ってもいなかった。でも、今は違います」

ルールメイキング(校則見直し)とは

 学校の生徒が中心となり教員らと対話しながら校則やルールを見直していく取り組み。認定NPO法人「カタリバ」(東京)が2019年から始め、「みんなのルールメイキング」としてプロジェクトを展開。事務局が生徒らの相談に応じたり、講師を派遣したりしている。2022年10月時点で全国162校(公立7割)が参加し、うち関東は78校。足利清風高校のルールメイキング委員会には1年生7人、2年生4人、3年生3人が参加している。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年1月7日

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  • キガネムシ says:

    元教員の立場から書かせて頂く。
    まず、理不尽な校則の多くは「校内暴力全盛期」に作られたという歴史的な経緯があるから、現状に合わないのは当然である。最近は生徒も落ち着いてきたので、指摘されているダメ校則が一掃されても特に問題は無いと思うが、一方で教員の立場は弱くなるばかりである。何か問題が起こると、例え生徒や保護者の側に非があっても叩かれるのは教員であり学校だ。社会がそのような構図を放置・推奨してきた結果である(誰だって悪者にはなりたくないから)。従って校則を変えること自体は一向に構わないが、変えた後で起きた不都合を理由に教員や学校を叩くことは遠慮願いたい。新しい校則の末尾に付け加えておけば良いのかな?

    キガネムシ 男性 50代

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