人には言えない思春期の悩み、この本を相談相手にしてほしい 「自分を生きるための〈性〉のこと」元養護教諭らが共同執筆
「避難場所」保健室での16年間
埼玉県内の小中学校で養護教諭を16年間務めた久保田さん。「保健室をホッとできる避難場所にしたいと思ってやってきた」と話す。
教員からの性暴力、親からの虐待…。子どもたちから数多くの相談を受けてきた。ぬいぐるみをいじりながら愚痴を漏らす男の子もいれば、保健室のドアを開け、うわーっと泣いてから走り去った女の子もいた。「息を切らせて追いかけて、どうしたん?って声を掛けると、家族の悩みをボソボソと話し出すんですよね」
「自分だけが変」と悩む子のために
本は「性と人間関係」編と「性と生殖に関する健康と権利」編の2冊組みで、6人の研究者が執筆した。久保田さんは前者を担当。「自分だけが変なのかも」と悩む子が多かったことから「いろいろな人間がいるのが当たり前なんだよ」と伝えようと考えた。最新の知見や社会情勢を踏まえ、具体的なアドバイスを盛り込んだ。
たとえば家族の多様化。典型と考えられがちな「夫婦と子ども」で構成する世帯が減少しているデータを示し、「祖父母と孫」「里親制度を活用して子どもを持つ同性カップル」など、さまざまな家族を例示した。血のつながりや法律上の婚姻関係は不可欠ではなく「家族は自分で選べる、というとらえ方もできる」と解説した。
性的同意と性暴力を解説 相談先も
キスやセックスをするかどうかの「性的同意」については「NO(嫌だ、しない)と言った人が優先されるルールがあると考えると分かりやすい」と明快だ。スカートめくりやズボンおろしが「ふざけ」ではなく「性暴力」であることも説く。「家族の中でも性暴力は起きる」「顔見知りが加害者だと、驚きと混乱でフリーズして(凍り付いて)どうしていいかわからないことが多い」とし、相談機関も紹介する。
最終章は「社会」が性に与える影響がテーマ。「男性は仕事、女性は家事・育児」の役割分担が定着したのは高度成長期で歴史が浅いことなどに触れ、「社会は変えられる」と訴えかけ、大人も勇気づけられる。
「悩んでいる人は独りぼっちじゃない。誰かとつながると人生の選択肢が増えて自由になれる。そんなメッセージが伝わるといいなと思います」(久保田さん)。各巻税込み1870円。